青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン

FC東京アカデミー卒大学経由J行き候補の新星、新潟医療福祉大学の沼田航征と森田慎吾に接近【Special/無料公開】

 

沼田航征(左)と森田慎吾(右)


 
 安部柊斗がこの夏、ベルギーのRWDモレンベークへと移籍。欧州に旅立ったが、考えてみれば武藤嘉紀、渡辺剛、坂元達裕、久保建英など、FC東京アカデミーに在籍した経験のある選手が大学経由でJリーグへ、そして海外へと羽ばたく例には事欠かない。その意味では、今後ブレイクスルーを果たすかもしれないアカデミー卒の逸材が牙を磨く舞台が大学サッカー界であるとも言える。
 
 そうした青赤戦士たちの活躍度を推し量ることが出来る場が天皇杯だ。Jクラブとの直接対決で、プロとの距離感がはっきりするからだ。FC東京トップチームが4回戦で平川怜がキャプテンを務めるロアッソ熊本と対戦することになった2023年度の天皇杯全日本サッカー選手権大会では、生地慶充が主力となっているFC岐阜をあわや1回戦敗退寸前にまで追い込んだ猛者がいた。新潟医療福祉大学男子サッカー部の沼田航征と森田慎吾のふたりである。新潟医療福祉大学は昨年度のインカレ準優勝で評価が急上昇中。過去に関東、関西以外の地域では福岡大学しか成し遂げていなかった決勝進出には大きなインパクトがあった。
 
◆天皇杯1回戦で感じたわずかの差
 
 新潟医療福祉大学は2022年度の天皇杯では1回戦でヴァンラーレ八戸を相手に勝利を収めた。つづく2回戦ではJ1の鹿島アントラーズに敗れたが、終盤に1点を返して1点差に迫る粘り強さを見せての1-2。それまでの戦績を顧みれば、八戸と同じJ3勢の岐阜には勝って当然と言ってもいい構図だった。今年の岐阜との1回戦では前半45分間は守備で優位に立ち0-0で推移。後半はゴールキーパー桃井玲のキックが寄せてきた相手フォワードのンドカ チャールスに当たって跳ね返り、自ゴールに入るというやや不運な失点で先制を許すも、後半40分には松本天夢が右から入れたクロスを松谷昴輝がヘディングで豪快に叩き込み、同点に追いついた。得意のサイド攻撃が機能しての同点劇に、延長戦に入りそうな雰囲気も漂ったが終盤に追加点を許し、1-2で敗れた。
 
 しかし新潟医療福祉大学のプレーは、観る者を驚かせるには十分だった。地元の長良川球技メドウに詰めかけた岐阜のサポーターは、試合後、新潟医療福祉大学の選手がスタンドの前へと挨拶に赴くと熱い称賛の拍手で出迎えた。
 
 中村俊輔や本田拓也を指導して桐光学園高校の黄金時代を築いた佐熊裕和監督のもとに、青森山田高等学校出身のエースストライカー田中翔太など、多くの高体連やJクラブユースから優秀なタレントが集まり、強力な体制を築いている。FC東京U-18出身者も例外ではなく、見覚えのある名前が各学年にずらり。岐阜戦では青木友佑が欠場していたが、沼田はボランチ、森田はサイドバックで出場し、強さの源となっていた。
 
 試合後の記者会見にはキャプテンの沼田が佐熊監督とともに出席。岐阜戦の90分間をこう総括した。
 

沼田航征。


 
「自分たちは2回戦進出、1回戦突破を目標にやってきました。この1回戦にすべてをかけて準備してきましたし、少しの差でこうやって負けてしまうのは自分たちの力不足。ここから総理大臣杯(全日本大学サッカートーナメント、9月1日~10日開催。北信越第1代表として5大会連続7回目の出場)やインカレが入ってくるので、そこに向けてもう一回チーム全体でやっていきたいと思います」
 
 要所でゴールを奪われて敗れた格好だが、試合全体を振り返れば内容的にはむしろ新潟医療福祉大学のほうが押していた。岐阜にボールを持たせると、サイドから中につけようとするときにプレッシャーをかけてことごとく奪い、相手の思いどおりにはさせなかった。この試合に向けて準備したプレスの網が存分に機能していた。加えて、岐阜は4-4-2のボランチ2枚のうちキャプテンの庄司悦大が最終ラインの間に落ちたり、サイドに開いたりと状況に応じてポジションをとってきてここに沼田も最初は悩まされたが、試合中にフォワードやサイドハーフと連携をとり、「いい守備とは言い切れないですけど、やられないというところまでグラウンドの中で改善出来たのはよかった」(沼田)と言うように、試合中に修正を図っていた。
 
「前半、最初のほうはなかなか慣れなくて。そこから修正出来たことは評価出来ると思っています。前半に動かされた分、後半少し自分たちの運動量も落ちてきて、だんだんスペースが空いてきてしまった。ずっと持たれているのではなく、ときには自分たちが持つ時間もないとここのレベルでは勝っていけないのかなと感じました」
 
 メンタル面で押されていたわけではなく、フットボールの内容でも劣っていたわけではない。だが、それでも黒星を喫したということは、どこかに差があったということになる。沼田はプロとの距離をこう感じていた。
 
「言い方はよくないのかもしれませんが、自分たちは相手がJ3のチームだったら倒さないといけない、全国で勝負しないといけないと思っているので、本当に倒す気持ちでやってきました。内容的にはどちらが勝ってもおかしくない内容だったんですけどそこで取りこぼしてしまうということは、プロの方々との経験の差。それは少しの差に思えるかもしれないけれども、大きな差だと思うので、そこを縮めていくよう、これからの総理大臣杯やインカレに向けてチームでやっていきたいと思います」
 
 天皇杯2回戦でJクラブを撃破し、昨年よりも先に進むことが目標だった。それが叶わなかった分の想いを、まずは総理大臣杯でぶつけることになる。ここからの季節で、大学生はさらに成長を遂げていく。
 
◆(東京出身の選手はここでも)みんな元気にやっている
 
 岐阜戦を観るかぎりでは東京勢がチームの中核を成しているように映ったが、沼田は謙遜していた。
 
「4年生それぞれに個性があって、自分を持っている。自分はキャプテンですけどチームをまとめやすいですし、みんながリーダーシップを張ってチームづくりをしていける感覚はあります」
 
 様々なJクラブユースや高体連から選手が集まっているが、佐熊監督がスタイルを明確に打ち出そうとしていることもあり、チームとしてのまとまりがいいようだ。
 
「監督には日頃から『自分たち新潟医療福祉大学はこういうサッカーをするんだ、というものを周りから見てわかるように』と、チームの色を濃く出すように言われています。それを実践しようとする姿勢が、チームとしてまとまっているというように見えているのかなと思います」
 

森田慎吾。


 
 沼田と同期である森田は、キャプテンを支えようと、縁の下の力持ちであるように心がけている。FC東京のスクールに通っていた小学4年生のときから共に行動していて、大学1、2年時は寮で同部屋。青木も含め「理解し合えている」と言い、東京時代からの絆の深さがチーム力につながっていることを実感している。青赤のつながりはこれだけでなく、岐阜戦では相手にいた3学年先輩の生地に挨拶をしていた。
 
「入場するときに生地くんに『FC東京の森田です』と挨拶をしたら『ああ、知ってるよ』と言われたので、ハーフタイムに話をしました。自分が中3のときに(生地くんが)高3だったので直接の絡みはなかったんですけど、でも練習会に行ったときとかユースの試合を観に行ったときに、よくプレーしていた存在だったので。それまではFC東京の初蹴りで見かけたくらいで話したり交流の機会はなかったんですけど、やはり先輩なので挨拶をしました」
 
 こうしてコミュニケーションの部分を含め、東京時代から培ってきたものをベースに、新潟医療福祉大学にしっかりと根を下ろしていることがわかる。プレーの面でも特長が出ていて、この岐阜戦では、惜しくも決まらなかったが、両チームの選手がたくさんいるところを通すミドルシュートを放っている。
 
「とにかくふかさないようにと意識して蹴ったんですけど、キーパーがもう見えていたので、あれは決めたかったですね。キーパーがブラインドになって、なんなら誰かに当たって入ればみたいな感じで蹴ったんですけど、意外といいところに行ってしまって真ん中のほうに行ってしまいました」
 
 持ち味であるオーバーラップも見せていた。
 
「自分のストロングポイントはオーバーラップからのクロスだったり長短のパス。前半、ビルドアップのシーンでボランチの松本につけたタテパス、ああいうのを自分の武器にしているので、攻撃参加の部分を注目してもらいたいです」
 
 Jクラブとの対戦でも自分らしさを出すことが出来ていた森田。しかしそのこと自体は、当人には驚きではない。「J3(FC東京U-23)で12試合出て、そのときにもプロとの距離というのは自分も“肌感”で感じているのでそういう面ではもっとやらなきゃいけないし、周りに伝えていかないといけないと思っています」と言うほどで、森田たちはプロに近い位置にいる。生地が岐阜のボランチとサイドバックでプレーしていることを考えれば、Jでの活躍を期待したいところだ。
 
 東京のユースウオッチャーへのメッセージを求めると、森田はこう言った。
「とにかくみんな元気にやっている、というのは伝えたいですね。新潟医療福祉大学は自分と航征が(FC東京U-18からは)初めてだった。そういう面でも航征とオレが先頭に立って後輩たちに伝えていったり、新潟医療福祉大学のよさを全国的に広めていきたいと思います」
 
 東京アカデミー出身の名に恥じない振る舞いで新潟医療福祉大学を押し上げていこうとする沼田と森田。東京のファンにも末永く応援してほしいふたりが、大学サッカーで躍動をつづけている。
 
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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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