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【無料記事】東京三大大声、大熊清+篠田善之+中村忠、そしてタケフサのプレス(2016/11/07)

声が大きいと言えば「サンキュー坂田! サンキューな!」の大熊清監督(現セレッソ大阪)だが、その大熊監督に対して「おれのなかの大声選手権で勝った」と自ら勝利判定の篠田善之監督も、ものすごく声が大きい。勝利と断定した理由は、篠田監督がアビスパ福岡時代に大熊東京と対戦した際、ともに大声を出しまくっていたところ、試合後は大熊さんのほうが声がガラガラになっていたから――ということなのだそうだ。

このふたりには声の大きさ以外にも共通点がある。選手を走らせることだ。さすがに大熊監督の部活サッカーより洗練されてはいるが、4-2-3-1の攻守にアグレッシヴなサッカーに若干の既視感をおぼえることも事実。FC東京には大熊監督タイプの人材を呼び寄せてしまう何かがあるのかもしれない。第一次大熊体制でもっとも技巧派の匂いがした奥原崇FC東京U-15深川監督も、東京のサッカーには巧さだけでなく激しさもないといけないと言っている。それほど、泥臭さはこのクラブから抜きがたいものなのだろう。

東京にとり、走ることとハードワークは、たしかに欠かせない要素だ。東京のファンは戸田光洋や林容平のように激走するフォワードやサイドアタッカーを好む。鏑木享も佐藤由紀彦も石川直宏も川口信男も平岡翼も大好きだと思う。同様に、よくボールを追う守備的な選手も好まれるだろう。
すると、そういうタイプではない選手が東京にやってきたとき、指導者は走らせようとするのではないか。

過剰報道へのカウンターで過剰報道はいかんというセカンド過剰報道が溢れるほど話題になった久保建英のJ3初出場。このJ3第28節に於ける彼のプレーでもっとも気になったのは、相手ボール時の守備だった。はたしてまともに競り合えるのか――もちろん体格差から、競り勝てる可能性は低いのだが、しかし心配は杞憂に終わった。久保は、このおとなの試合でも臆することなくボールを追い、相手選手に圧力をかけた。後半19分、岡崎慎のフィードを拾って収めようとした相手ディフェンダーに迫り、外に出させてマイボールのスローインにした場面に顕著だが、それ以外の場面でもアグレッシヴな守備を心がけていた。

この試合、中村忠監督は、大熊監督や篠田監督に勝るとも劣らない大声で選手たちに指示を出していた。選手たちの腰が重いと思えば「押し上げー! 押し上げー!」と叫び、ラインを上げさせる。そうした声は集音マイクにも入っていたようで、キックオフからタイムアタックまで、スカパー!の中継でもはっきりと聞こえるほどだった。
そしてこの声は過去二年間、FC東京U-15むさし、そしてFC東京U-18Bで、いかにも走らなさそうに見える久保を走らせるように鼓舞し、けしかけてきた。
日々、中村監督が「タケー! 行ける! 行けるよ!」と大声を出してボールを追わせた積み重ねのおかげもあるのかもしれない。やれ和製メッシだやれバルサだと、常に巧さが強調される久保は、立派な青赤マンと言っていいテンポで動きまわっていた。

はたしてFCバルセロナからの、いわば“預かりもの”をここまで東京色に染めてしまっていいのかという疑問はあるが、少なくともFIFAの規定によって18歳まで国際移籍ができない以上、いまこの瞬間、成長を止めないように適切な刺激を与えつづける必要はある。その舞台が東京であるなら、持ち味を損なわないかぎり、ある程度の影響は避けられない。小平はスペインではないのだから。

大事なのは、一貫して久保を見つづけてきた中村監督が、文字どおりに監督している、ということだ。中村監督は以前、高校二年生、そして高校一年生の平川怜や中学三年生の久保をU-23で起用するケースについてこう言っていた。
「J1をめざすトップの選手ありきでやってはいますが、(若い選手がプレーする場合)最初から90分はきついだろうとは思っています」
当然だが、配慮がある。無理だと思えばやらせないし、行けると思えばボールを追わせる。平川はまずJ3第27節で後半16分から出場し、手応えを掴んでから、次の第28節で初めて先発した。久保はU-15むさしのあと、飛び級で加入したU-18B、U-18Aで途中出場を重ねて少しずつカテゴリーを上げていき、U-23初登場のJ3第28節でもまずベンチに入った。ベンチスタートということは、常識的に考えれば、負傷などのアクシデントがないかぎりは、もっとも早いタイミングでも、登場は後半の頭からだろう。実際そうなった。久保のプレーは45分間+アディショナルタイムにかぎられた。

東京のアイデンティティかもしれない大声が、クラブのスタイルとして走るサッカーを提示し、選手たちを激しさに適応させていく。そしてただけしかけるのではなく、庇護もする。FC東京U-23を組み込んだ“育成の前倒し”は、大胆さと慎重さのバランスによって成り立っている。

 

 

 

 

 

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