青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン

【無料記事】高橋秀人とセンターバックを組む吉本一謙、ピッチの上では悩みを見せず──優しき大男の決意(2016/11/08)

大型犬のような愛嬌で周囲を温める。それが吉本一謙という男だ。厳しい質問にも、笑顔で返す。Honda FCと争う天皇杯ラウンド16は、オーストラリア代表のネイサン バーンズのほか、日本代表のセンターバックである森重真人と丸山祐市が不在。その代わりというニュアンスで「スタメンはまちがいなさそうですが」と問われても「そっすね、これで出られなかったらオレいなくていいと思います」と、苦笑いだった。

J1のレギュラーシーズンが終わり、天皇杯を前にした小平では、監督から選手にいたるまで、ほぼ全員が「いつもどおり」という言葉を繰り返した。吉本も同様だった。
「自分たちは相手のこともリスペクトしていますし、いつもと変わらぬ、篠田(善之監督)さんが就任してからやってきたことを全力で出すだけ。勝ち上がることが大事なので、その目的に向けてすべてを出しきりたい」

吉本は高橋秀人と最終ラインの中央を守るだろう。
センターバックとしてやるべき仕事は整理済みだ。守備では相手に起点をつくらせない。そのためには、前線の選手がプレッシャーをかけに前に行ったとき、相手のカウンターを受ける事態に備え、危機管理をしておく必要がある。
「攻めているときにみんなが前がかりになりすぎないというか、数的不利になったりしないように、サイドバックやボランチを止める」
それも危機管理のひとつだ。
ボールを持ったときには、Hondaの選手たちの激しいプレッシングに晒されそうだが、これもいつもどおりに対応すると、吉本は言う。
「つなげるところはつなぐし、狙うところは狙う。シンプルなところはシンプルにやるし、という、いつも自分が試合に出たときにやっていることを、場面に応じて変わらず実践したいと思います」

言うまでもなくフィールドプレーヤーでは長身の部類。セットプレーでは攻守ともに鍵になる。
「セットプレーで点を獲れたら大きい。篠田(善之)監督は、相手に応じてトリックプレーなどを準備してくれる。セットプレーはほんとうに大事だと思います。このあいだの大宮戦もセットプレーで勝ちましたし。1点を争うなかでセットプレーの重要性は大きい。(vs.大宮アルディージャ戦でも分析が役に立ったのか?)そうですね。いつも試合の前には、ここが空いているから狙おう、ここにこう入っていこう、という指示があります」

ディフェンダーの勲章である完封を狙うのかという質問もあったが、天皇杯に関しては勝ち上がることがいちばん大事だと、しっかりと目的を見据え、吉本は冷静だった。
「勝てば、いまいるメンバーであと一カ月半長くできるわけで、そこに向けて全員でひとつになって、また全員で戦えるように、絶対に勝ちたいですね」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

囲みの輪が解けたあと、聞きそびれた話をするべく、あとを追った。大会が切り替わり、いま新鮮な気持ちなのかと訊くと、答えはNOだった。
「天皇杯だからといって新鮮な感じはない。つづいている、という感じです。
ここまではゲームが一週間に一回のペースで、しっかりやってきた。J3がありますけど、次の試合に勝ったらしばらく間隔が空く。だから、ここまでみんなでがんばろうと話をしていたんです。勝てばこのメンバーで12月の24日まで行けるので、また長くみんなでサッカーできるように、ここまで全力でやろうと。
いつもどおりですけど、勝ち上がらないといけないという責任感もある。自分の今後にとっても大事なゲームだと思う。(センターバックでレギュラーの)あのふたり(森重真人と丸山祐市)がいないあいだに負けてしまったら申し訳ない。ふたりのためにもしっかり勝って、もう一回次に全員で挑めるように、結果が大事なので、終わったときに勝っていられるようにしたい」

気丈だった。平常心を保っているように見えるよ、と声をかけると、ほんの少し内心が漏れた。
「オモテでは(苦笑)。いろいろ考えることはありますけど。この時期、みんないろいろ難しいし。でも、ピッチの上では自分のやるべき仕事は変わらない。みんなでひとつになって勝つことが大事です。がんばります」
仕事場では弱音を吐かない。男の挟持だろう。

遡ること数日前も、吉本と少し話をした。大けがをしてサッカーができなかったときに比べれば、今シーズンは遙かにいい状況だ。J3で週に一回ペースの試合をこなしてきたせいか、コンディションはずっとよく、けがもしなかった。
「それでもいろいろなことがあってキツかった。ただ、振り返ってみれば、いい経験ができたと思う。いつ出番が来るかわからない。万全の準備をして、そのときが来たら全力でやります。いまは天皇杯を勝ち進もうと、みんなが気持ちを揃えている」

いろいろなこと。試合に勝てず監督が交替するほど低迷したチームのこと、調子がいいのになかなかJ1で試合に出られなかった自分自身こと、そのほかにも大小さまざま、ほんとうにいろいろなことがあっただろう。
しかしそれももうすぐ終わる。天皇杯に負ければその時点でJ3が残るのみとなるし、勝てばクリスマスか正月に照準を合わせて最後の調整を施していくことになる。いずれにしても結末は近い。このあとを悔いなく過ごせるよう、全力で戦ってほしい。

 

 

 

 

 

——–
後藤勝渾身の一撃、フットボールを主題とした近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(装画:シャン・ジャン、挿画:高田桂)カンゼンより発売中!
書評
http://thurinus.exblog.jp/21938532/
「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
購入または在庫検索は下記までお願いします!
http://www.amazon.co.jp/dp/4862552641
http://www.keibundo.co.jp/search/detail/0100000000000033125212
http://www.kinokuniya.co.jp/disp/CKnSfStockSearchStoreSelect.jsp?CAT=01&GOODS_STK_NO=9784862552648
http://www.junkudo.co.jp/mj/products/stock.php?product_id=3000187596
http://www.honyaclub.com/shop/g/g16363019/
http://www.tsutaya.co.jp/works/41336418.html
———–

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ