青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン

東京ダービーのピッチ外について【2023 天皇杯3回戦 FC東京vs.東京V 本音Column 前編~無料公開】

 

生卵がぶつけられていた看板。


 それでは、まだ書いていなかった天皇杯3回戦の本音コラムを始めていきたいと思います。ご存知のとおりこの試合ではピッチ外の事象が大きな問題となっていて、それに触れておかないとスポーティだった試合内容について触れにくいので、まずは無料公開の前編でピッチ外の事象を切り離して取り上げていきます。人によっては気分が悪くなる内容かもしれませんので、嫌な予感がするという方は下にスクロールしないことをおすすめします。
 
 さて、7月12日に起きた事象のうち特に大きなものは飛田給駅前看板への卵投げと、味の素スタジアムFC東京側ゴール裏の花火打ち上げです。はっきりさせておきたいのは、このふたつが「やってはいけないこと」だったかどうかです。前者は、すべって転んで持っていた卵が高いところに設置されている看板に当たるということは考えにくく、意図的な行為である可能性が高く、刑法上の器物損壊罪に問われる事柄であるということは誰にでもわかると思います。後者は天皇杯を主催するJFAの規定に反していますので、スタジアム内の物差しで明確に違反行為です。どちらもやってはいけないことであることに、特に異論はないと思います。
 
 では実行者はなぜこれらの行為に及んだのか。もし「やってはいけないこと」だと認識していたのであれば、本来やってはいけないことを「この日は無法が許される日だからやったんだ」と思っていたことにならないでしょうか。「興奮と熱狂が起こるサッカーの試合では無礼講だからやっていい」「ライバルとの対立関係が浮き彫りになるダービーマッチの日は特別だからやっていい」「欧州のやんちゃなウルトラはもっとすごいことをやっていてこんなものの比ではない。だからこのくらいはやっていい」。そう思ってはいないでしょうか。
 
 今回、自首した人々に直接取材したわけではないので、実際に実行者がなぜそれをやろうと考えたのかはわかりません。しかしどんな理屈をつけても、卵投げも花火打ち上げも許されないことであるのは確かです。そして、それがおこなわれた以上は実行者を罰しないといけない。
 
 悪事を働いたものが罰せられれば、事件としてはそれで終わりです。けれども、再発防止についての論議が進むと、それだけでは済まなくなる。二度とこのようなことを起こさないためには「やってはいけないことをやる実行者」を生む土壌にメスを入れ、構造から変えていかなくてはいけないということになります。
 
 ただ、ここが難しい。現在、サッカーの興行は、ときに無法を働く“輩”も含め、スタジアムで興奮をおぼえる人々の熱狂によって“賑わい”や“盛り上がり”といったスタンドの雰囲気を醸成しているからです。
 
 おりしも天皇杯ラウンド16(4回戦)では浦和レッズのサポーターがスタジアムで暴れるという事象が発生しました。こうした出来事が積み重なると、いずれフットボールクラブは無法者を切り離して事件を起こすかたちではない熱狂の光景をつくる方向に舵を切るのか、それとも無法者をも仲間として事件を起こす可能性もはらみながらこれまでと同様に熱狂の光景をつくるのかという判断を迫られることになりかねません。
 
 これまでのサッカー界はある程度の暴力性を内包するかたちで存在してきたと考えれらます。闇の部分には極力触れないようにして、曖昧にごまかしてきたと言ってもいい。それはサポーターの感情の振れ幅の大きさがスタンドの熱狂を生むと知っていたからではないかと思います。しかしこう大きな事件がつづくとごまかしきれなくなりますね。
 
 もし観客席のあり方について従来の構造を変える方向に議論が進むのだとすれば、東京ダービーの日に発生した事象は浦和戦とともにその材料のひとつになるのではないかと思います。
 
 関連してもうひとつ、東京ダービーを機に問われたのはFC東京というクラブとしての、あるいはファンとしての東京ヴェルディに対する向き合い方であると思います。東京ダービーとはなんなのか、当事者がどういう想いを持つものなのか、この点については、試合後の記者会見でヴェルディの城福浩監督が述べたことが参考になるのではないかと思います。以下に起こします。質問をしたのはダンさんでしたね。
 
「何度か事前の会見でも言いましたけれども、同じ地域にふたつのチームがあるというだけではなく、そもそもの成り立ちがちがいすぎる。対極にあるチームです。青赤から見た緑は、本当に感情的になる存在でした。でも自分はいま緑にいて、このチームも苦しみました。ここ十何年。その、いま這い上がろうとしているなかでダービーを経験したら、選手は同じカテゴリーでやらなきゃダメだと、おそらく今日強く感じたと思います。この感情が入り交じる、こういうダービーこそ、おそらくJリーグでもっとも注目を集める、Jリーグの人気を取り戻すようなゲームになっていくという風に思っているので、ヴェルディをどうしてもJ1に上げたい。今日あらためてそう思いました」
 
 ちゃんとウラをとれていないのでこの場で一つひとつのディテールには触れませんが、ヴェルディがJリーグに参画、東京に移転、定着していく過程で、いろいろと東京側の憎しみを買うような出来事があったようです。スモールクラブとなってからのヴェルディのサポーターの方には与り知らぬことかもしれませんが、歴史的にかつてそういう経緯がありました。現在も緑は、城福監督が言うところの「青赤が感情的になる」対象であることは間違いない。それは否定出来ないにしても、ただそうした感情の表出の仕方に関しては、刑法上の犯罪が発生しないような空気に持っていく努力が必要であるとは思います。
 
 東京ダービーを100パーセント、スポーティな対決として処理せよというのは難しいかもしれません。いわゆる煽り合いはあっても仕方がない。横断幕の文言にしても、書いた本人がそれでいいと思っているのであればどのような評価を受けてもその人の責任というだけですし。ただヴェルディの東京移転から22年、Jリーグ開設から30年が経ち、いわば“戦後”として、対抗意識の発端はあくまでも地層に押し込め、対抗意識そのものはスポーツ上のテンションの高さや、応援の熱さに向かうようにしたほうがいいのではないかなと、個人的には思います。あくまでも個人的には、です。そう簡単に答えが出る問題でもないと思いますので。ただ、そうすることによって城福監督が言うように、ダービーがいわゆるドル箱のゲームになるかもしれない。その可能性はあると思います。
 
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『青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン』は、長年FC東京の取材を継続しているフリーライター後藤勝が編集し、FC東京を中心としたサッカーの「いま」をお伝えするウェブマガジンです。コロナ禍にあっても他媒体とはひと味ちがう質と量を追い求め、情報をお届けします。

 

 

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そのほかコラム、ニュース、などなど……
新聞等はその都度「点」でマスの読者に届けるためのネタを選択せざるをえませんが、自由度が高い青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジンでは、より少数の東京ファンに向け、他媒体では載らないような情報でもお伝えしていくことができます。すべての記事をならべると、その一年の移り変わりを体感できるはず。あなたもワッショイで激動のシーズンを体感しよう!

 

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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