平山隆史MD部長インタビュー~FC東京オフィシャルグッズのこれから<前篇>根底にこめられた想い【無料公開】
各Jクラブの全チームが活動休止となり、試合はもちろん練習を観ることもかなわなくなった。そんな現状でも話題となりSNSの画面上を賑わせるグッズは、クラブとサッカーファンをつなぐものだ。そしてFC東京もグッズの供給を途切れさせず、新しいニュースを日々届けている。
「おや」と思わされたのは、4月2日。公式アカウントから洗って使えるバンダナとマスクを販売する旨の告知がされたあと、それを平山隆史マーチャンダイジング部長がコメント付きでリツイートしたのだ。開発の意図と発売にいたる契印を凝縮した文面だった。グッズを通じた発信にメッセージをこめているように思える、温度感のある文章。
ようやくお知らせできました。
本当は4/3が再開という前提でスタジアムで販売できるように、と担当がすごく頑張ってくれたもの。
他クラブと違って感染症対策への寄付付きとかにはあえてしないでギリギリの価格に設定。利益ではなく再開に向けてみなさんとの協力。
よろしくお願いします。#tokyo https://t.co/n46Rgyjbl3— ヒラ (@tak_hirayama) April 2, 2020
東京はオフィシャルグッズにどのような想いを乗せているのか。気になる一文の主である平山MD部長を取材した。
◆グッズにこめた哲学
4月21日のJリーグ第4回理事会後会見で、木村正明Jリーグ専務理事は各クラブが4大収入、すなわちスポンサー、チケット、グッズ、スクールによる収入の減少に危機感を募らせていることを明らかにした。スクールは活動を休止中、試合がなくチケットを販売することもできないとなると、数字を伸ばせる領域はグッズに絞られてくる。MD部としても収益源としての認識はあるが、その位置づけにとどまらない考え方がグッズ開発の根底にあった。
「まずは当然ながら、グッズの売上はクラブの貴重な収益源であり、チームへの投資の源泉にならなければいけないというのは大前提として、『楽しみ』を提供するという側面は確かにあると思います。その『楽しみ』をもう少し詳しく見ると、商品そのものに対する満足感というのももちろんありますが、その商品やコンテンツを通して感じる好きなクラブとの一体感や、東京ファミリーの一員であると感じられる誇りや安心感といったものもあると思っています」
グッズを見る、グッズに触れる。その行為が生活の節々で、自分が青赤であると、帰属意識を確かめられる機会になっているというのだ。
「一年間365日のうち、好きなクラブの試合があるのはだいたい40日くらい。その40日は試合を楽しむことはもちろんですが、仲間たちと一緒にユニフォームを着て、お気に入りのグッズを身に着けて、スタジアムの雰囲気や応援、スタジアムグルメやイベントもめいっぱい非日常を楽しんでもらいたい。でも、私たちは試合のない日も含めて、みなさんの日常に東京があるような、ふとしたときにクラブの存在を感じてもらえるような、そんな存在になりたいと考えています。
さらには、2023VISIONの東京への愛着度の向上のひとつとして『ファン・サポーターからの波及を促進』とあるように、ファン・サポーターのみなさん一人ひとりがまわりの方々とクラブとの接点になるような展開をつくり出したいのです。たとえば東京ドロンパのしっぽストラップや、スマホケースを日常から使っているみなさん自身が、それまで東京にあまり興味がなかったまわりの方々がクラブを知るきっかけになりうる。そのためには、みなさんとクラブをつなぐものとして、SNSなどのコンテンツやホームタウン活動と並んで、グッズが果たせる役割は決して小さくないと思っています」
◆変化を象徴するコラボグッズ
青赤を愛する人々がグッズを身に着けるという自然な“営業”で、この首都クラブに新たに興味を抱く層を惹きつけることも可能になる。それほどJリーグ加盟から20年以上が経ちオフィシャルショップに並ぶ商品は多種多様に花開き、魅力的に感じられる状態であることは間違いない。ただ、それでも他のJ1上位クラブに比べると売上は少ない。2019年に発表された2018年度の物販収入を比較すると、浦和レッズが9億5400万円、川崎フロンターレが8億6900万円、鹿島アントラーズが8億3900万円、横浜F・マリノスが5億7100万円となっているのに対し、東京は2億8700万円である。MD部はこの一昨年度までの状況をどう分析しているのだろうか。
「さまざまな要因があると思います。ひとつの要因としては、これまではマーケティングに基づいた商品展開や販売スケジューリングを継続して実施することができていなかったことがあります。お客さまが何を求めていてどこを改善すればいいのか、感覚的に、または部分的には把握できて改善している部分はありましたが、それを継続してPDCAを回し続けることが不足していた。この部分は今シーズンとくに課題感を持って取り組んでいます。
また、これまでの東京は、グッズの売上にあまり多くの利幅を求めていませんでした。それでもファン層の拡大や来場者の増加に伴って安定して売上を伸ばしてきたことも事実ですが、競争が激しくなっていきているなかで、東京も成長スピードを上げるためにはクラブの利益を大きく広げていかないといけない。そこで、昨シーズンから在庫のリスクを負ってでも収益を増やそうという考えに転換しています。この結果が徐々にあらわれてくることを願っています」
東京を愛する人々に喜んでもらい、行き渡らせることができればよし――という気風が薄利型の収益構造に結びついていたことは確かだろう。しかし物販を収入の柱としていくのであれば、前例にとらわれず冒険心のある企画を通し、ユーザーの心に刺さる商品を開発していかないといけない。売れ残るリスクも増すが、発想の枠を広げていくことがファン層の拡大にもつながるなら、積極的な商品開発に打って出るべきだろう。
その意気込みは、スニーカーや手帳といったふだん使いのおしゃれなものを送り出していこうというコラボ商品にもあらわれている。ただしそうしたグッズを好む層がどのくらい存在するのかは読みにくい。そこにどの程度の力を割くべきなのか。確実な売上が見込める比較的ベタな応援グッズとのバランスをどう考えているのだろうか。
「お客さまのニーズに沿った商品という大前提があったうえで、流行や東京だからこそできるコラボレーションは常に意識するようにしています。そのなかで、販売チャネルや数量でバランスを取るようにしています。
先ほどお話ししたように、試合の日はユニフォームやベタな青赤グッズで非日常を楽しんでもらいたいので、応援スタイルをイメージしたグッズをスタジアム中心に販売しますし、一方で、日常ではさりげないなかでもふとしたときにクラブの存在を感じるアイテムを取り入れてもらうために、できるだけ具体的にターゲット層と使用するシーンを想定した商品をオンラインショップ中心に販売するといった感じです。たとえば仕事でも使えるRHODIAコラボのメモ帳や、プレゼント用やご自宅でちょっとした高級感と東京の伝統に触れられる江戸切子コラボのグラスなどは日常でも使えて東京を感じられるグッズですね。
こうしたコラボグッズが売上の大半を占めるようなことはありませんが、クラブのグッズをあまり魅力的に感じていない方にとっても、コラボグッズをきっかけに『クラブのグッズもいいな、変わってきたな』と感じてもらいたいと思い、日々業務に取り組んでいます」
その変化が肌で感じられるようになりつつあった春、新型コロナウイルス禍に見舞われた。はたして東京はグッズ開発を通し、この事態にどう立ち向かおうとしているのか。
<後篇につづく>
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