デイリーホーリーホック

JX金属経営企画部川口義之氏×水戸ホーリーホック小島耕社長対談(後編)「BtoB企業がサッカークラブのスポンサーになるメリットについて」【インタビュー】※無料記事

JX金属経営企画部川口義之氏(写真左)と水戸ホーリーホック小島耕社長(写真右)
【写真 米村優子】

4月11日 プラチナパートナー契約を締結
4月30日 JX金属サンクスマッチを開催
8月28日 エリートリーグ栃木戦をJXサンクスマッチとして開催
10月21日 トップパートナー契約を締結

今季、水戸ホーリーホックにとってのビッグニュースの一つとして挙げられるのは、日本の非鉄金属業界を牽引するJX金属とオフィシャルパートナー契約を締結したことでしょう。
その関係は従来の「スポンサー」の枠にとどまりません。様々な活動を通し、「クラブ発展」のため、「地域発展」のため、クラブを力強く支えてくれる存在となってくれているのです。その関係は「蜜月」と呼ぶにふさわしいように感じます。
なぜ、そのような関係を築くことができたのでしょうか。そして、BtoB企業であるJX金属がサッカークラブを支援する狙いは何なのでしょうか。
JX金属の経営企画部長・川口義之さんと水戸ホーリーホックの小島耕社長にここまでに至る経緯と今後について、語り合っていただきました。
(全2回)

Q.シーズン後半戦から川口さんはアウェイにも来るようになりましたし、しかも、サポーター席で試合を見ているそうですね。
小島「シーズン後半戦に入ってから、川口さんが『アウェイに行きたい』と言い出すようになったんです。候補日がいくつかあった中で、僕はあえて新潟戦をお勧めしたんです。新潟の毎試合多くのサポーターがスタジアムに集まるあの雰囲気を見てもらいたいと思ったんです。そこで感じるものがあったと思います。翌朝に一緒に新幹線に乗って、東京まで戻る間に新潟で感じたことや水戸も新潟みたいになれるといった話をしていただいた、あの時間は今年のハイライトの一つですね。あっという間に東京に着きました」
川口「新潟さんは市民クラブとして多くの市民からサポートされている。その様子を見たかったんです。もう一つ、目的があったのは、新潟さんのスポンサーの中にBtoBの企業があるんです。我々もBtoBの会社なんですけど、その取り組みを聞いてみたかったんです」
小島「新潟さんの営業担当の方に時間を取っていただき、ミーティングをさせてもらったんです」
川口「BtoBの企業とどんなコラボレーションをしているのかとか、どんな狙いを持っているのかとか、そういった話を伺いました。新潟でいろんな取り組みが行われることを知り、とても勉強になったと同時に、我々とホーリーホックの関係に可能性を感じることができましたし、すごく自信を持つことができたんです。大観衆がスタジアムに詰めかける新潟のような雰囲気にするには課題はまだまだ大きいけど、そのギャップを埋めるために、BtoBの企業でもいろんなことができると感じたんです。すごくいい機会になりました」

Q.BtoB企業がスポーツクラブのスポンサーになるメリットは何だと思いますか?
川口「会社名を露出することに加え、社員やその家族の満足度を高める機会を提供すること。また、複数の事業所に横串を通す存在を作ることもあります。さらに次のステップとして、地域の中で社名を認知されるだけでなく、盛り上がりを見せることによって、社会貢献に関わっているということを外部の人にも社内の人にも感じてもらうといったメリットがあると思います」
小島「新潟で感じたことは大きかったみたいです。川口さんはアウェイのゴール裏で声を出しながら試合を見たんですよ。そこに来てくださる方々とのコミュニケーションでも感じることが大きかったみたいです」
川口「新潟戦は試合だけでなく、スタジアムの雰囲気でも完敗でした。でも、そこで落ち込むのではなく、むしろ、奮い立たされました。我々が目指すところが明確になったなと。あと、アウェイまで来てくれるサポーターの方を応援したいという気持ちが強くなりました」
小島「半年前までサッカーをスタジアムで観たことがなかった人ですよ。すごい変化です」

【写真 水戸ホーリーホック】

Q.9月には新たに県北地域6市町がホームタウンに加わりました。
小島「6年前にホームタウンを水戸市から県央地域9市町村に拡大して、そこで歩みを止めていたところがありました。4月30日の夜に川口さんに『素朴な疑問なんだけど』という前置きから『なぜホームタウンを広げないの?』と聞かれたんです。『JX金属は県北に足を置いている会社なんだけど、県北に対してどう思っているの?』と。県北地域の人口が減少していることは知っていましたし、何かしら盛り上げていかないといけないとは思っていました。それまでも何度も足を運んではいました。ただ、その質問をされるまで県北地域のホームタウン化は考えたことがありませんでした。『考えてみたらどう?』と言われたことがヒントとなり、翌日から社内で話し合って、動き出すこととなったんです。そこからホームタウン化が決まったんですけど、効果は大きいですね。最終戦では、県北地域からのお客様が明らかに増えました」
川口「事業所でも喜んでいる人が多かったですね」
小島「JX金属さんがヒントをくれなかったら、僕らは歩みを止めていたと思います」
川口「我々としては県北地域を巻き込むためにオフィシャルパートナーになろうと思ったわけではなく、実際にオフィシャルパートナーになってから、県北地域の人に水戸ホーリーホックの素晴らしさを知ってもらいたいと思うようになりましたし、一緒に盛り上がりに加わってもらいたいという思いが芽生えてきたんです。そして、ホームタウン化を見据えて、エリートリーグを日立市で開催していただきました。そこで地域の方々の反応を見て、『これはいい』と確信をして、さらに話を進めることとなりました」

Q.日立市は鹿島アントラーズのフレンドリータウンですし、柏レイソルの責任企業である日立製作所のお膝元でもあります。それゆえ、クラブとしてなかなか踏み出せないところもあったのでは?
小島「もちろん、そういう考えはありました。でも、川口さんからは『立ち止まっている場合ではない』と言ってもらったんです。ならば、動いてみようということになりました。そこからのスピード感はすごかったと思います。スタッフが本当によく動いてくれました。その結果、いろんな人が喜んでくれました」
川口「なかなか大変だったと思います。アントラーズさんとも丁寧に話し合いを行って、県北でのサッカー・スポーツ振興という大きな視点で理解をいただいたという報告を受けています。そういう粘り強い交渉の末のホームタウン化だったそうです」
小島「アントラーズさんの担当者とお互いの考えるホームタウン活動について語り合って、我々の考えを知ってもらったうえで『やってもいいですよ』という返答をいただきました。そこに至るまでは簡単ではありませんでしたが、ものすごいスピード感で動いていたとは思います」

【写真 米村優子】

Q.通常なら数年ぐらいかかることを短期間で実現させているような印象があります。
小島「一流企業のサラリーマンである川口さんから僕が学んでいることはスピード感。やると決まったら、速い。それは僕らの会社のモットーにしています。スピード感というキーワードをすごく大事にされていて、やるとなったら、本当にやってくれる。たとえば、日鉱記念館にサポーターが来場した時に何か特典があるといいよねという話をした翌日にキーホルダーをプレゼントすることが決まっていました。このスピード感はすごい。僕らもそれに応えていかないといけない。JX金属さんがオフィシャルパートナーになってくれたことにより、僕らの会社のスピード感も上がりました。スタッフたちは苦労しているところもあると思いますけど、ここに合わせていくことによって、今まで見えなかった風景を見ることができるんじゃないかと思えるようになっています。そういう空気感があります」
川口「もっと急かしているんですよ(笑)。たとえば、県北6市町がホームタウンになってくれたわけですよ。私からしたら、多くの人とハッピーな思いをシェアしたいと思っているにも関わらず、何も起こせなかったら期待外れになってしまいます。シーズン終了したので、早く動いてもらいたいという思いはあります。そこは突いています」
小島「頑張ります!」

Q.今後の水戸ホーリーホックへの期待と課題をどのように感じていますか?
川口「小島さんに長く社長を続けてもらいたいですね。それはなぜかというと、僕らの価値観が通じているから、いろんなことができているんです。そこは結構大事だと思うんです。たとえば、Jリーグでは責任企業からの出向で社長を務められて、数年で入れ替わるクラブもあると聞きます。それでは僕らのような関係は築けないと思うんですよ」
小島「川口さんはすごく勉強熱心で、Jリーグのことをいろいろ調べられているんです。我々は年間売上で10億円を超えそうなぐらいの規模です。でも、現状の資金力ではJ1に上がっても、その後が大変なことになるということを分かっていただいている。そこを15億円から20億円にしたときにはじめてJ1昇格とJ1定着が現実味を帯びてくるといったことも理解していただいています。僕が社長に就任して、2年ですけど、いろいろ新しい取り組みをしてきました。だから、やめてはいけないと言ってくれるんです。クラブが変わってきて、ある程度持続可能な状態にしていくまでには10年以上かかるんじゃないかということを言ってくれます。Jリーグのことだけでなく、水戸ホーリーホックの歴史も研究されていて、今クラブに必要なのは安定した経営であり、それがチーム強化につながり、子どもたちへの還元にもつながると理解してくれているんです。それが大きいですね」

【写真 水戸ホーリーホック】

Q.10月には来季のトップパートナー契約が発表されました。
川口「カテゴリーとしてはトップパートナーなんですけど、私は『トップ』でありたいとは思っていないんです。カテゴリーとしてそこに入るだけです。コミットメントの度合いは高まったでしょうけど、今までクラブを支えてきたパートナー企業さんより上の立場になるなんて、まったく思っていません。大切なのはみんなでクラブを支えることなんです。最初の目的としては、より大きな露出をすることでしたけど、だんだん目的が広がっていって、いろんなアクティビティーを通じて入り込むことが大切だと考えるようになりましたし、その経験を従業員やその家族にシェアできることが目的となっています。ユニフォームのどこに社名が入るかは僕らにとって大きな問題ではないんです。もっともっとクラブが大きくなって、経営規模も大きくなってもらいたい。そうなると、我々のシェアは小さくなると思いますが、それでいいんです。だけど、ずっと一緒にやっていきたい。それが一番の目的なんです。水戸ホーリーホックにはケーズデンキさんをはじめ、今まで支えてきた多くの企業があります。なので、『トップ』という呼び名はあまりふさわしくないというか、その方々を差し置いて、『トップ』と思われることを我々は望んでいません。そこはすごく大事なことなんです」
小島「パートナー企業の後輩として、川口さんはケーズデンキさんに挨拶に行きましたから」
川口「水戸ホーリーホックは特定の企業に支えられているクラブではないですから、みんなで支えていくことが大事なんだと思っています」

Q.それが市民クラブの理想的なあり方ですからね。
小島「川口さんも社長も副社長も口をそろえて、『プロスポーツクラブを経営するつもりはない』と明確におっしゃられました。あくまで僕らを支えるポジションだと。そこは分かりやすく、明確な線引きの中でサポートしてもらっています」
川口「経営そのものに口を出すことはありません。ただ、目指すことを実現するための力になりたいとは思っています」

Q.オフィシャルパートナー2年目となる来季はどんなシーズンにしたいですか?
川口「巻き込んだ人たちをがっかりさせたくない。そのために考えていることはたくさんあるけれど、例えばそのひとつとして、まずは弊社の事業所の社員やその家族に喜んでもらえるように、いろんな機会を作ってもらいたい。そして、それを弊社の社員だけでなく、県北地域全体に広げていく。それはパートナー企業の責務だと思っていますし、それを果たしてくれる社員を1人でも増やしていきたいと思っています。それが私のミッションだと思っています」
小島「数年前まで経営的になかなか伸びなかったんですけど、最近は少しずつ成長フェーズに入ってきています。この状況を止めるわけにはいかない。Jリーグが60クラブになって、競争が激しくなっている中、将来水戸ホーリーホックが持続していくために何が必要なのかということを明確にしていかないといけない。現実的なことを言うと、ファンがまだ少ない。支える人が少なければ、支えてくれる企業も少ないのは当然のこと。支える人を多く作ることを徹底的にやっていきたい。トップチームは全力で頑張ってくれることでしょう。そこに対しては期待をするだけで、フロント側は新しいファンづくりとこの地域での水戸ホーリーホックをハブとしたコミュニティーづくりの構築に注力していきます。それをJX金属さんと一緒にやっていきたいと思っています」

【写真 米村優子】

(了)
(取材・構成 佐藤拓也)

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