「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

歓喜はいかにして、もたらされたのか。 トリコロール戦士たちの証言をもとに、チームを取り巻く特別な空気感を紐解く。 [検証 : 2022シーズン優勝への軌跡(1)]

 

歓喜はいかにして、もたらされたのか。

全3回に分けて、優勝の決め手を検証していく。

第1回は、実際にピッチで躍動した選手の視点から。

きっかけやターニングポイント、さらには信じる強さの秘訣まで。

トリコロール戦士たちの証言をもとに、チームを取り巻く特別な空気感を紐解く。

 

 

 

ルヴァンカップ広島戦後の出来事

 

水沼宏太は無意識に叫んでいた。

もう一回ここから!

全員でまとまって!

もう一回まとまっていこう、ここから!

オレらみんな悔しいよ、悔しいから!

ここから一つひとつ大事だから!

絶対勝とう、これから!

 

8月に入って公式戦3連敗。リーグ戦で覇権を争っていた川崎フロンターレに黒星を喫し、ちょうど1週間前に続いてルヴァンカップでサンフレッチェ広島に敗れた直後の出来事だ。

 

 

試合後、ゴール裏へ挨拶に向かったチームの先頭に立っていたのは水沼だった。一礼したのち、先に述べた言葉につながる。拍手とブーイングが混ざる複雑な状況に、必死の形相で訴えかける。でも言葉はすべてポジティブだった。

「選手たちに悔しい気持ちはもちろんあるけど、お金を払って一緒に戦いに来てくれる人は同じくらい悔しいんじゃないかなって。それなのに、その間に溝ができるのはもったいない。気がついたら勝手にしゃべり始めていて、ロッカーに戻ってから『大丈夫だったかな』と心配になったくらい(笑)。でも一緒に戦って、つながっていければ大丈夫なチームだと思っていたからこそ、ああいう行動になった。自分のなかで意識的にやるとかではなくなってきている」

 

 

20年以降、コロナ禍で声援が消えたスタジアムには、いつも水沼の声が響き渡っている。観客を意識してのパフォーマンスではない。本人も無意識のうちに声を張り上げている。ここでも暗く沈みそうな雰囲気のゴール裏で力強く呼びかけた。

「どこのチームにいても、チームを勝たせるためにやっているところはあるし、自分としては自然なこと。パフォーマンスでもなんでもなくて、あれも含めて自分かなって。チームが勝てればいいし、勝つためにやる。何がしたい? と聞かれたら、自分は勝ちたい。勝つためなら声が枯れて出なくなってもいいし、ぶっ倒れるくらいまでやる」

 その姿は、松田直樹とかぶって見えた。

 

 

ヨコエク

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