2024年03月18日 6時01分　
カテゴリ： ★無料記事

ロペスから水沼、水沼からロペス

アンデルソン・ロペスがド迫力の金髪でプレッシャーをかけると、相手センターバックはたまらず足がもつれ、ボールをロストしてしまう。奪ったロペスはそのまま左サイドを駆け上がり、余裕のある状態でゴール前へラストパス。反対サイドからフリーで走り込んだ水沼宏太がしっかりと合わせて幸先よくゴールネットが揺れた。

アシスト役を演じたロペスのコメントが胸アツだ。

「ハードワークしてチームのために走ることは大前提としてあって、それにプラスαで点を取って貢献できたらいい。順位が上にいるチームはハードワークが大前提にあるので、引き続き献身的にやっていきたい」

するとお返しの瞬間がやってくる。

左サイドでのエウベルの縦突破からファーサイドでボールを受けた水沼は冷静にトラップ。DFやGKがブロックに飛び込んでくる様子を確認し、あえて横方向へのパスを選択。今度はロペスがゴールネットを揺らした。

憎いばかりの落ち着きを見せた背番号18がこの場面を振り返る。

「ロペスに1点目アシストしてもらったので、自分でもシュートを打てたけど横にいるのが見えたし「決めてください」というパスを出せたかなと思う。確実に点を取れる選手がいれば、そこを見つけるのも大事になってくる。それはマリノスの選手たちがやってきたことでもある。強引に行けるところで行くことも大事だけど、確率を上げていくために入ってきている選手を見つけることも大切」

水沼は1ゴール1アシストと、これ以上ない結果でヤン・マテウスの負傷離脱によってめぐってきたチャンスを生かした。プロの世界は常に生き残りをかけたサバイバルでもある。この場面で結果を残し続けてきたから、水沼宏太は10代から現在に至るまで第一線にいる。

後半にもゴールを決めたロペスは、マリノス加入後10回目のマルチゴール。ものすごい数字であると同時に、ハットトリックが近そうでなかなか遠い。今季もコンスタントに得点を重ね続ける大エースは「自分も早く3点目を決めたくて、それはひとつの目標でもある。今年はそこを変えるつもりでやっている」と笑った。

緊急出場の白坂がマリノスの勝利に貢献する

2-0になってからは、やや拙いゲーム運びだったかもしれない。相手がひとり少ないにもかかわらず、前半終了間際に2失点して一時は同点に追いつかれてしまったスコア推移を見れば明らかだろう。

悪い流れと出来事は続くもので、後半途中にはポープ・ウィリアムが一発退場となった。あのロングボールにGKが出るべきかどうか、正否は分かれて当然だと思う。先にボールに触ろうとするならば明らかに出足が遅く、それができなかった時に相手選手に触れてしまえば退場処分は免れない。

白坂楓馬にJ1デビュー、さらにはマリノスデビューの機会が訪れた。松永成立GKコーチに「いつも通りでいいから」と力強く背中を押されると、凛とした表情でピッチに入っていく。さらにゴールキック時には冷静にボールをつなぐなど、その様子は急きょの出場とは思えないほど落ち着いて見えた。

しかしながら内心はまったく違ったようだ。試合直後の言葉がとにかく初々しい。

「緊張しかしていない。緊張で今もあまり試合の記憶が残っていない。ピッチに入る時に選手たちが笑顔で一緒に戦おうと後押ししてくれた。緊張がほぐれたかなと思うけど、今振り返ると記憶がないので緊張していたと思う（笑）」

レンタルバックした昨季は公式戦出場なし。連戦が続いたため練習試合の機会も限られていた。念願のマリノス復帰にも、理想と現実の狭間で揺れていた時間かもしれない。それでも、日々のトレーニングは嘘をつかないことを京都戦が証明してくれた。

「常に試合を想定しての練習というのは毎日言われていることで、それを自分で意識してやってきた。結果的に自分が出てからは無失点だったということで、日々やってきたことを少し出せてよかった」

ようやく踏み出した一歩目は、これから進んでいく道の轍となる。チームメイトの退場による緊急出場でも、わずかな時間だったとしても、チームの勝利に貢献したという事実は一生消えない。

「マリノスのGKとしてピッチに立つ以上、どんな状況でも最高のパフォーマンスで後ろから支えるのは当たり前。どんな状況でもしっかりとプレーしなければいけないと痛感した。勝ったのは何より。前の選手が点を取って、後ろの選手は体を張って守って、ファン・サポーターの方は雨の中ずっと声援を送ってくださって、マリノスファミリー全員で勝ちを掴み取ったと思う」

　緊張の白坂楓馬が、最後にようやく笑った。