「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ほんの少しの判断ミスや行き違いが、人間の人生を大きく狂わせる。 白坂楓馬のパフォーマンスが苦い記憶とともに薄れてしまうのは、本当に悔しい [J5節 名古屋戦レビュー]

 

強い意志がみなぎっていたセンターバック松原健

 

週の前半にここまで公式戦フル出場中のエドゥアルドに負傷した。突如として守備の要を失った誤算は小さな影響にとどまらない。

 

 

同じタイミングで、バックアッパーと目されていた渡邊泰基も離脱を余儀なくされた。最近の練習試合で左センターバックを務めていた選手だけに、マリノスは二重苦に見舞われてしまった。

 

 

ハリー・キューウェル監督の決断は、右サイドバックが本職の松原健を左センターバックで起用する一手だった。聞けば「センターバックの練習は2日だけ。練習では全然ダメで、上手くいかなかった」と首を横に振った松原。それでも試合に向けて急ピッチで頭と体の準備を進めていく。

 

 

たどり着いた結論は、経験豊富で責任感も強い彼ならでは。

「こうやって監督に抜てきされて任せられる以上は責任を持ってやらないといけない。自分にできないことにチャレンジするよりもできることにフォーカスして、気持ち的にもポジティブにやっていくしかないと切り替えた」

 

 

試合が始まると集中力高く、アラートに過ごしていく。スピードスターの永井謙佑を必死に追いかけ、体格差のあるパトリックとの空中戦でも勇猛果敢に戦った。初コンビを結成した上島拓巳も「健くんは経験があるし、どこでプレーしてもレベル高くやってくれるのは分かっていた。今日の試合でも落ち着いてプレーしてくれたし、センターバックとして一緒にやって気持ち良くプレーできた」と感謝しきりだった。

 

 

選手の穴を埋めるのは選手しかいない。特定の誰かに頼るのではなく、チーム全体で戦う。連戦の初戦からそういった状況になってしまったのは痛い誤算でも、総力でしのいでいくしかない。松原が見せてくれたパフォーマンスには、どんな状況でもチームのために戦うという強い意志がみなぎっていた。

前半こそ得点を奪えなかったが、後半開始と同時に攻撃のギアを上げる。渡辺皓太のボール奪取を起点に、畳みかけるような波状攻撃から先制点を奪う。ゴールネットを揺らしたのは永戸勝也だ。

 

 

「狙い続けているところにボールがこぼれてきてくれて、思い切り振り抜いた。とにかく浮かさないように下に蹴ろうと」

 数試合前から先発に戻り、この日はついに90分間フル出場。さらにはゴールも決めた。完全復活の狼煙と言っていい。

守備を固めていた名古屋グランパスから素晴らしい形で得点を奪い、マリノスの視界は良好。この時点で不安材料は特に見当たらなかった。

 

 

 

 

選手たちはプロらしく振る舞っていた

 

話が前後するが、J1先発デビューとなった白坂楓馬のパフォーマンスも記しておきたい。

 

 

特に前半の内容が素晴らしく、ピンチにも慌てず騒がずゴールキーピングしてくれた。永井との1対1をストップした場面などは、パーフェクトなポジショニングと距離感で対応し、止めるべくして止めたと言っていい。経験少ない選手にありがちな、いわゆるドタバタ感は一切なかった。

それだけに、試合が暗転してしまった不可思議な出来事が悔やまれてならない。

 

 

ヨコエク

 

もともと予定していた交代(加藤蓮→畠中槙之輔)のタイミングで渡辺皓太がプレー続行不可能になるアクシデントが重なり、マリノスは山根陸を送り込もうとした。3回目の選手交代だったため、同時に投入しなければならないのはルールにおいて仕方ない。

 

 

交代用紙の提出が遅かったのか、第4審の交代ボードの準備が間に合っていなかったのか。記者席からは後者に見えたが、ほとんど“言った、言わない”の世界である。そして、そんな流れからワールドクラスのシュートで失点を喫しても「判定はどうしても覆すことはできない」(ハリー・キューウェル監督)。

誤解を恐れず言えば、サッカーにおける判定による損得の関係はイーブンに近い。長いシーズンを戦っていれば、そのどちらの立場にもなる。最近はVAR判定によってグレーゾーンが限りなく少なくなったものの、文明の利器を使って最終的に判断するのは人間なのだから、判断ミスや行き違いはどうしても起こる。

山中亮輔は主審の指示を待ってスローインを投げている。マリノスが交代できていない状況で試合を再開させる判断を審判団が下したという事実は、是か非か。主審と第4審がコミュニケーションをとって試合を一時的にストップさせていれば、不幸な出来事と後味の悪い試合にはならなかっただろうが、すべてはあとの祭りに過ぎない。

やるせない事象と悔しい結果にも選手たちは理由や原因を自分たちに見つけ出そうと、プロらしく振る舞っていた。

ディフェンスリーダーを担った上島が「僕やディフェンスラインが隙を許してしまったのがすべて」と唇を噛めば、奮闘していた白坂は「結局は最後終わった時にどうなっているかがサッカー。あの時間帯は絶対に守られなければいけない。マリノスというチームのGKを務める以上、防がなければいけなかった」と言葉を振り絞った。

 

 

攻撃陣にもそれぞれの立場で考えがある。水沼宏太が「2点目を取れなかったし、そこで隙を作ってしまったのは自分たち」と言えば、右ウイングで途中出場した植中朝日は「怪我人とかいろいろアクシデントはあるかもしれないけど、そこのポジションで出してもらっている以上は責任を持って役割を全うしないといけないので、力不足です」とうなだれた。

 

 

 

ゴールを決めた永戸はあえて暗い表情を見せずに「1年に1回くらいこういう試合もある」とすぐに気持ちを切り替えていた。我々もその気持ちで川崎フロンターレ戦に向かわなければならないのだろう。

 

 

ただ、ピッチに立っているプレーヤーは人生を懸けて、命を削るような思いで戦っている。ほんの少しの判断ミスや行き違いが、人間の人生を大きく狂わせる。試合後、選手をかばう立場でもある松永成立GKコーチが必死に何かを訴えかけていた姿が脳裏に焼き付いて離れない。

 

 

選手たちの頑張りが、特に堂々とゴールマウスを守った白坂楓馬のパフォーマンスが、苦い記憶とともに薄れてしまうのは、本当に悔しい。

 


 

 

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