「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ケニーの舞いと咲き誇るトリパラ。 後半アディショナルタイムの劇的弾で開幕白星スタートだ。 [J1節 ヴェルディ戦レビュー]

 

喜怒哀楽や感情の起伏は悪いことばかりではない

 

バスケットボールでいうところのスイッチプレーで松原健がフリーになる。相手選手を倒してしまったためファウル判定と勘違いして足を止めかけたが、幸い審判の笛は鳴らなかった。ヤン・マテウスからの折り返しパスを受けると「いい位置に置けた。クロスを上げるよりも打って終わったほうがいい」と左足を振り抜く。

 

 

ファーサイドに飛んだシュートはちょうどよく力が抜けていた。美しい弧を描き、サイドネットに吸い込まれていく。劇的な瞬間を最後尾から見つめていたポープ・ウィリアムが証言する。

「蹴った瞬間に、雰囲気的に入るのがわかった。入った瞬間、ゴール裏が盛り上がって、めちゃくちゃ鳥肌が立った。たまらなかった」

 

 

松原が放った、これ以上ない会心の一撃だ。ACLラウンド16第1戦のバンコク・ユナイテッド戦で一発退場となり、勝ち上がりをかけた第2戦に出場できなかった。経験豊富なベテランらしからぬ愚行だったと言わざるをえない。

 

 

「チームのみなさん、ファンやサポーターのみなさんに迷惑をかけてしまって申し訳ないと思っている。その中でもプレーするチャンスを与えてもらったので、自分はそこで結果を出すしかない。もちろん気合いが入った」

 ただでは起き上がらない。もともと気合いを前面に押し出すタイプで、そうやって発するエネルギーを何倍にもできる選手だ。喜怒哀楽や感情の起伏は悪いことばかりではない。アスリートをポジティブに衝き動かすきっかけにもなる。

 

 

それにしても一発退場→後半アディショナルタイムの決勝弾は、物語のインパクトが強すぎる。本人も理屈ではわかっているのだろう。毎年繰り返す1年に1回のゴールが開幕戦で飛び出しても「年イチは年イチなので。僕は年イチなので欲張らないことが大事」と謙虚な姿勢を貫く。

 

 

でもゴール直後は感情を爆発させずにはいられなかった。完全に舞っていた様子は、狂喜乱舞という四字熟語がよく似合う。もちろんゴール裏も呼応する。国立競技場のスタンドにトリパラが美しく咲き誇った。

 

 

 

新システムの機能性と進捗

 

あまりにも劇的な逆転勝利で忘れかけているが、チームとしてはACLから攻撃の組み立てが機能していない。バンコク・ユナイテッド戦の第2戦は120分戦って、最後の最後にアンデルソン・ロペスが決めたPKの1ゴールのみ。東京ヴェルディ戦でも同じようにロペスがPKを決めるまで決定機をなかなか作れなかった。

 

 

 

ヨコエク

 

中盤を逆三角形に変えたシステム変更の影響は少なからずありそう。ヴェルディ戦では前半途中から早くもダブルボランチにシフト。「ダブルボランチになって自分たちからのパスコースが増えた。ただ4-3-3のビルドアップはチームとして改善する必要がある」と課題を口にしたのはセンターバックの上島拓巳だった。

 

 

ここまでの公式戦3試合はすべて新布陣でスタートしているものの、選手交代や試合展開を考えながら必ず昨季の形に戻している。システム変更がスムーズに機能していない裏返しでもあり、選手個々が少し窮屈そうに見える。現状に限って言えば、喜田拓也や渡辺皓太、山根陸はいずれもダブルボランチで良さを発揮できるだろう。

 

 

両センターバックがビルドアップ能力に秀でるタイプならまだしも、エドゥアルドと上島は防空戦や耐久力の部分で強さを発揮する選手。前半それぞれが危険なミスからピンチを招いたように、マリノスは最終ラインで必要以上にボールを持たされる展開になると効果的な攻撃を設計できていない。

 

 

あまり効果的に働いていないように見える新システムだが、これがゴール地点というわけでもないだろう。試合中に柔軟な立ち回りを見せているのは他ならぬハリー・キューウェル監督自身で、新チーム立ち上げ時によくある意識付けの意味合いもあるはず。その意図をすべて明かさないのは、アンジェ・ポステコグルーやケヴィン・マスカットと同じだ。

 

 

ヴェルディ戦では、やりたいことがうまく機能せず、さらに先制を許す苦しい展開だった。にもかかわらず、最終的に勝てるようになったのはマリノスが逞しくなった証左と言えよう。勝ち点0と勝ち点1は大きく違うが、勝ち点1と勝ち点3はもっと違う。

2024年のトリコロールは結果を出しながら反省と修正を施し、完成形を目指していく。

 

 

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