「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【マッチレポート】J2-12[A] 水戸ホーリーホック戦『垣間見た勝負のあや』(23.4.30)

2023年4月29日(土)
J2第12節 水戸ホーリーホック vs 東京ヴェルディ
17:03キックオフ ケーズデンキスタジアム水戸
[入場者数]3,656人 [天候]曇、弱風、気温20.8℃、湿度26%

水戸 0‐2 東京V
前半:0‐0
後半:0‐2
[得点]
0‐1 深澤大輝(79分)
0‐2 バスケス・バイロン(83分)
※A=アシスト、及び今季の通算数。東京Vのみカウント。

●東京Vスターティングメンバー
GK1   マテウス
DF6   宮原和也
DF13 林尚輝
DF5   平智広
DF2   深澤大輝
MF18 バスケス・バイロン(87分 稲見)
MF9   杉本竜士(58分 北島)
MF17 加藤弘堅(76分 山越)
MF23 綱島悠斗(46分* 加藤蓮)
MF7   森田晃樹
FW14 マリオ・エンゲルス(76分 阪野)
(ベンチメンバー:GK41飯田雅浩。DF16山越康平、26加藤蓮。MF20北島祐二、25稲見哲行。FW11阪野豊史、27山田剛綺)

監督 城福浩

試合データなど(東京ヴェルデ オフィシャルサイト)

■もしバスケス・バイロンを下げていたら

監督会見の部屋に城福浩監督が入ってくる。きびきび歩き、着座し、顔を前に向ける。勝っても負けても、動作や表情は変わらない。

「われわれが望むステージで戦うために、今日は絶対に負けられない試合でした。前半に関して、敢えて不要なという言い方をしますが、不要なバックパスが多く、プレッシャーを受けるシーンがあったため、ハーフタイムに映像を見せ、これはいらないと徹底して後半に入りました。修正した後半は全員で粘り強く戦い、2点ともに圧力をかけ続け、ゴールが欲しい時間帯に取ることができたと思います。相手陣内であれほど長くサッカーができれば、必ずチャンスはくると考えていました。今日、何より一番すばらしかったのはクローズの仕方ですね。途中から入った選手が相手にシュートをさせない、クロスも上げさせないという迫力で対応し、全員で勝ち取った勝点3だったと思います」

淀みなく、ゲームの総括を語り終えた。

79分、深澤大輝のゴールで先制する直前、東京ヴェルディのベンチに動きがあった。ユニフォームに着替えて準備を整えていたのは山田剛綺だ。リードを奪った結果、山田は赤いビブスを着用して下がり、以降、声がかかることはなかった。

「とにかく、引き分けで終わりたくないという考えがあり、多少のリスクを負っても点を取りたかった。この内容で0‐0では終われないと山田剛綺を呼び、交代の指示を出していた状況で1点取ることができました。あの時間帯の内容は悪くなかったため、それまでの戦いの継続を優先したということです」

あのとき、山田の代わりに誰を下げるつもりだったのだろう。

76分に阪野豊史と山越康平を投入し、林尚輝を1列前に上げたばかりだった。ゲームを掌握した状況で無理やり後ろを削り、形を崩してまでというのは考えにくい。

「(バスケス・)バイロンですか?」と僕は問う。

「そうですね」反射的に返した城福監督の顔から白いものがこぼれた。

つまり、あそこでV・バイロンを下げていれば、東京Vの2得点はなかったかもしれない。動くか、待つかのほんのひと呼吸。勝敗を決する核心に触れた感覚に、心がざわっとする。

しかし、それは気のせい、事実をちょいと含んだ思い違いだ。

すべてのプロ監督にとって、生きることは決めることだ。四六時中、絶えず思考し、決定と取消の間を行き来する。90分の間、タイミングが少しでも早く、あるいは遅かっただけで結果は変わり、狙いどおりの成果を手にすることがあれば、空振りに終わるのはいくらでもあろう。

とうとう下せなかった決断も歴史の一部には違いない。よくある采配ズバリ的中! なんて安直な表現は、ほとんどの監督は鼻で笑っている(と思う)。

どちちに転んでもおかしくなかったゲームの、勝負のあや。たまたま、そのひとつが明かされたに過ぎない。

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