「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

10年近く右SBとして戦う男、松原にとって、理想のSB像とは [総力特集/開幕への期待vol.3 :松原健について]

 

 浦和レッズとの開幕戦まで残すところ3日。いよいよ新シーズンの幕開けが近づいてきた。第3回となる今回は、アルビレックス新潟から完全移籍で加入した松原健を取り上げる。

 新加入ながら右SBとして信頼を勝ち取り、スタメンで開幕を迎えることになりそうだ。だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。新たにやってきたチームの戦術に適応する作業に、少なからず苦労した。自身のサッカー観との齟齬をいかに解消し、いかにしてピッチに立つか。

 身も心もトリコロールに染めるために。松原のプレシーズン6週間をここに記す。

 

 


 

タイキャンプに入り、いよいよ戦術トレーニングが始まった。チーム始動日から10日前後の強行軍で90分ゲームを行うため、フィジカルトレーニングと並行して試合への準備を進める必要があった。サーキットトレーニングや持久走などで疲労困ぱいの状況でも、特に新加入選手はチーム戦術に慣れようと必死に頭と足を動かす。その中に、松原健もいた。

アジアチャレンジカップ2試合に、いずれも右SBで先発。中澤佑二と新井一耀の右隣に陣取り、ともに最終ラインを形成した。タイクラブのプレッシャーの緩さも追い風となり、プレーの感触を確かめる良い機会となった。スパンブリー戦では鋭い縦パスからゴールの起点になるなど、2試合を通してまずまずの対外試合デビューを飾った。

だが、試合後の表情は冴えなかった。暗中模索している最中で、何か考え事をしているような印象を受けた。当時のコメントを振り返ると、まだチーム戦術を体得できていないことがわかる。

「この2試合はいろいろ考えながらプレーしていた。全体的な内容はそんなに悪くなかったと思うけど、いままでの感覚とピッチの中でやることに食い違いがあった。その部分で戸惑う部分はあった」

 既存選手はエリク・モンバエルツ監督が目指すスタイルを理解しつつ、アレンジを加えられる。その最たる例が松原と同じポジションの金井貢史だろう。独特なサッカー感覚と高い戦術理解力を持つ金井は「空いているスペースに走っているだけ」という言葉とともにいつの間にかポジションを移し、彼ならではのアドリブでプレーできる。ユニフォームを着替えて間もない松原には、まだその判断と決断が難しかった。

性能とプレーエリアについて述べると、マリノスのSBにはまず高い守備能力が求められる。加えて、タッチライン際のエリアはSBではなくサイドMFの使用スペースとなる。ボールがサイドに展開される際、SBは必ずしもタッチライン際を背にせず「内側にポジションを取る」(松原)。サイドMFにスペースを譲り、そことCBとボランチの中間ポジションに入る場面もしばしば。金井の言う「空いているスペース」である。

宮崎キャンプに突入し、戦術トレーニングの機会が増えていく。その中で新チームのスタイルにアジャストする方法を考えていた。妥協や我慢ではなく、折り合いをつけるという表現が最も正しい。

高校時代、大分トリニータユースに所属していた松原は、1年次にそれまでのボランチから右SBにコンバートされた。すると新ポジションに「アップダウンするのが楽しくて、上がってからのクロスにハマった」と虜になる。以降、大分からアルビレックス新潟に籍を移し、あるいは世代別代表に招集されても、常に右SBを主戦場としてプレーしている。

すでに10年近く右SBとして戦う男にとって、理想のSB像とは。

 

 

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