「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

水沼弾でACL初白星を手にする。 最終盤につながる、きっかけとなる勝利だ [ACL(2) 山東泰山戦レビュー]

 

背番号18の咆哮

 

苦しいアウェイゲームをなんとかモノにした。

 

 

ゲーム終盤、山東泰山のシュートが2回ポストを叩き、冷や汗を流した。外国籍選手を前線に並べたパワープレーに近い攻撃は、美しさこそないが迫力は十分。ギリギリのところまで追い詰められたのが正直なところだ。

 

 

その状況で、仁川ユナイテッド戦以来の出場となった上島拓巳が最後まで覚悟を見せてくれた。高さと強さを強調してくる相手との相性も良かったのだろう。警告を受ける危ない場面があったものの、土俵際で踏ん張った印象だ。勇猛果敢を体現するパフォーマンスは、シーズン最終盤を戦うチームを救ってくれるはずだ。

 

 

もうひとり守備陣で名前を挙げるとすればGK一森純か。セービング以上にビルドアップ時の球出しで相手のプレスをいなし、流れとテンポをもたらした。完全アウェイの状況で安易にボールを大きく蹴り出すのではなく、徹底してショートパスをつなぐ。技術だけでなく度胸と自信の成せる業。まさしく自信満々である。

 

 

一森を起点としたフットボールの質では、完全にこちらが上だった。山東泰山は完全に攻守分業制で、さらに前線の選手が現代サッカーに欠かせない攻撃から守備への切り替えを無視しているのだから、マリノスとしてはラクである。

序盤から幾度となくチャンスを作り、ようやくゴールネットが揺れたのは37分。エウベルがナム・テヒとの壁パスで完全に抜け出し、巧みなアウトサイドパスをゴール前へ。水沼宏太がきっちり決めた。

 

 

 

ヨコエク

 

喜田拓也不在でキャプテンマークを巻いた背番号18の咆哮。経験豊富なチームリーダーが勝利を手繰り寄せる一撃を見舞った。

 

 

 

 

次に向かうエナジーをもたらす勝利

 

流動的な位置取りが特徴のマリノスにおいて、水沼が見せた変幻自在のポジショニングは特に光っていた。

序盤こそ右サイドに張っていたが、次第にインサイド寄りのポジションへ。反対サイドのエウベルが攻撃の起点となった次の瞬間を狙い、有機的に絡んでいく。その様子にかつてのクロッサーの面影はほとんどない。

 

 

常にチームの勝利を最優先に、何をすべきか考えているプレーヤーだからこそ。周囲と絡めなければバランスを崩すだけになりかねない思い切ったアクションが相手を混乱に陥れ、マリノスが主導権を握れた要因と言っていい。

2点目を奪えていれば、もう少し余裕を持って戦えただろう。ナム・テヒや植中朝日にはチャンスがあったし、VAR判定で取り消しになる際どい幻のゴールもあった。サッカーにおける永遠の課題でもあるが、決めきれなかった反省はやはり次の教訓として生かさなければならない。

 

 

一方で、苦しんだ末に掴み取った白星には大きな価値がある。4日前にヴィッセル神戸に敗れたショックを払拭し、次に向かうエナジーをもたらす勝利だ。長距離移動という負担を経ての簡単ではないゲームだったからこそ、勝った喜びもひとしおだろう。

そして、この試合は中3~4日で行われる8連戦の終着点だった。チームは試合翌日から3連休を挟み、次の公式戦は11日のルヴァンカップ準決勝・浦和レッズ戦となる。試合間隔は実に7日。心身ともにリフレッシュする時間がある。

「この経験がリーグ戦、ルヴァンカップにも必ずつながる」と殊勲の決勝点をもたらした水沼。アウェイで掴んだ勝ち点3がトリコロールを蘇らせる。

 

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