「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「決められるチャンスがあった」 同点ゴールを決めた宮市亮が、それでも悔しさをにじませた [ACL(1) 仁川戦レビュー]

 

 

勝つチャンスは間違いなくあった

2アシストと結果を残した吉尾海夏が淡々と語った。

「あそこまで徹底して引いてくるチームはJリーグでもなかなかない。そういう相手にセットプレー2個で点を取れたのはポジティブなこと」

 

 

マリノスの2得点はいずれも左CKから。背番号25が集中して蹴ったボールはどちらも的確に味方をとらえる。仁川ユナイテッドが引いて守ってきたからこそ、価値ある2ゴールだった。

最近の吉尾は出場機会こそ限られているものの、ピッチに立てば目に見える結果を残し続けている。「自分はやり続けるしかない立場」と繰り返し、一心不乱に前へ進む。最終盤に向けて指揮官からの評価は確実に高まっている。

17分の同点弾を決めたのは西村拓真だ。最近はナム・テヒに先発の座を譲っているものの、眼光鋭く言い放つ。

「自分のやれることをしっかりやって日々成長して、僕の力が必要になる時がくると思ってやっていた」

 

 

力強いガッツポーズに、溜まっていた鬱憤が垣間見えた。後半にも惜しいシュートを放つなど、勝負の終盤戦に向けて西村の復調は心強い。

もうひとりの得点者は宮市亮だ。1-2とビハインドの前半終了間際に、ニアサイドの角度がない地点からヘディングシュートを流し込む。「正直、僕はおとり役だったけど、吉尾選手からいいボールが来たので触るだけだった」と照れ笑いを浮かべた。

 

 

しかし、ゴールを喜ぶ以上にチャンスを逸した場面を悔やむ。それはまだ1-1の状況だった19分のこと。植中朝日のポストプレーから吉尾を経由し、宮市が決定機を迎えた。この絶好機が決まっていれば、と悔やむのも無理はない。

「リードする展開のほうがやりやすかったし、僕も決められるチャンスがあった。同点弾はあったけど、その前に決めるチャンスを決めていればリードできた。そういうところも国際試合では大事になるし、そこもひとつ敗因だったと思う」

 勝つチャンスは間違いなくあった。

 

 

指揮官の姿勢は首尾一貫していた

 

悔しい敗戦になったのは事実でも、この一戦ですべてが決まるわけでも終わるわけでもない。

 

ヨコエク

 

戦前から指摘していたように、複数のコンペティションを戦うことによるプライオリティは間違いなく存在する。直近3試合未勝利のリーグ戦で、これ以上の取りこぼしは許されない。加えて対戦相手が現在3位の鹿島アントラーズ、現在1位のヴィッセル神戸と上位陣が続くのだから、絶対に譲れないのは当然だ。

 

 

そのためのフィールドプレーヤー総入れ替えである。あるいは、負傷明けで先発した松原健のプレータイムを制限するのも右に同じ施策だろう。この試合から中4日で戦う鹿島戦を見据えたマネジメントは確かに随所に見え隠れした。この仁川戦でベンチスタートだった面々が鹿島戦に先発する様子は容易に想像できる。

一方で、だからといって最初から負けが許容されているわけでもない。メンバーを入れ替えつつ、現状でできる限りを尽くし、勝利する。それがマスカット監督の描く青写真だったに違いない。

その点で、2-3と勝ち越し点を奪われた時点での、吉尾に代えて永戸勝也を投入する交代はいささか消極的だったか。さらに失点して2-4になった86分には喜田拓也から渡辺皓太にスイッチ。いずれもフレッシュな選手を投入したと言えば響きは良いが、ベンチにはアンデルソン・ロペスやエウベルといった個の能力を持つ選手が控えていた。絶対的に勝利を目指すリーグ戦ではありえないベンチワークだ。

 

 

この采配だけを切り取っても、無理をしてでも勝ちに行くスタンスには見えない。鹿島戦を睨んだゲームマネジメントは、試合前だけでなく試合中も変わらなかった。そういった意味で指揮官の姿勢は首尾一貫していたとも言えるが、勝利を目指すのならば不完全燃焼でしかない。

もともと勝たなければいけない位置付けだった鹿島戦は、絶対に勝たなければいけない試合になった。プレッシャーが大きくなった一方で、多くの選手を温存することに成功した。コンディションに不安はない。

ならば今のこの段階で仁川戦の是非を語る必要はない。一喜一憂し過ぎることなく、鹿島戦に気持ちを切り替えて集中するのが先決。マリノスファミリーが総力を結集して勝ち点3を奪取すべきビッグマッチなのだから。

 

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