「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

サッカーの神様は彼に幾度となく試練を与える。角田は「優勝したい」と何度もインタビーで繰り返していた。 タイトルにかける熱、仲間を想う気持ち、そしてF・マリノスへの愛 [角田涼太朗インタビュー](無料記事)

【角田涼太朗選手インタビュー】

実施日:10月7日(土)

インタビュー・文:藤井 雅彦

 

最初に注釈を設けておきたい。

このインタビューを実施したのは10月7日、つまりルヴァンカップ準決勝が行われる以前に収録したものである。

周知の通り、角田涼太朗は先日の浦和レッズ戦で負傷交代。

下顎骨骨折という重傷で、再び戦線離脱を余儀なくされた。

今季、サッカーの神様は彼に幾度となく試練を与える。

復活を信じて待つ間に、何かできることはないか。

 

 

そこで本人とクラブの了承を得た上で、あえて全文を無料公開することにした。

残り5試合となったリーグ戦を主題とした会話の中で、角田は「優勝したい」と何度も繰り返した。

タイトル獲得に懸ける熱、仲間を想う気持ち、そしてF・マリノスへの愛。

逆転優勝を目指し、ここからチーム一丸となって最終盤を駆け抜けるために。

背番号33の言葉に耳を傾けてもらいたい。

 

 

 

 

シンくん(畠中槙之輔)の結婚式でもらったメッセージカードに……

 

――単刀直入な質問ですが、角田涼太朗選手にとって優勝やタイトルとは?

「すべてが報われるものだと思います。高校の時にそれを強く感じました。2年生の時に苦しい思いをして、その経験を糧にして頑張って、最終学年の3年生になって冬の高校サッカー選手権で優勝できました。高校3年間の、特に悔しさをバネに頑張った最後の1年間に積み上げてきたものが、すべて報われる瞬間でした」

 

 

 

――プロになると責任や重圧も大きいと思います。昨季のリーグ優勝で感じたことは?

「F・マリノスにはたくさんのファンやサポーターの方がいます。それ以外にも支えてくれる人や関わってくれる人がいて、その全員を幸せにできるのが優勝であり、タイトルだと思います。学生時代の感じ方とは変わってきている部分もありますが、応援している人が無条件で笑顔になれる瞬間ですし、去年の優勝でも素晴らしい瞬間を味わえました。今年は連覇をかけたシーズンになって難易度は上がっているかもしれないけれど、だからこそどんな景色が見られるのか楽しみです」

 

 

 

――今シーズンは角田選手自身にもいろいろな出来事がありました。優勝できたとすれば、個人的にも苦労が報われる瞬間なのでは?

「すべての時間が報われると思いますし、今年はその輪の中に自分もいたい。自信を持ってタイトルに貢献したと胸を張れるような場所にいたい。去年も試合に出させてもらっていましたが、終盤の優勝争いのところはなかなか先発出場できませんでした。だから優勝を争う最後の局面でピッチに立ってチームに貢献したいという思いは強い。その緊張感やプレッシャーを味わえるのは当たり前ではないので、とても重要だと思います」

 

 

 

――8月に怪我から復帰しましたが、入れ替わるタイミングで畠中槙之輔選手が大きな怪我で離脱してしまいました。より一層頑張らなければいけない要素になったのでは?

「自分が戦列復帰した試合でシンくん(畠中槙之輔)が怪我をしてしまいました。去年の終盤は一緒に悔しい思いをした同じポジションの選手ですし、これまでのキャリアや貢献度を考えたら自分よりも悔しい思いをしたはずです。シンくん自身が誰よりも今年に懸けていたと思いますし、開幕から一緒に試合に出られて、でも結果的に自分の復帰と入れ替わりで怪我をしてしまって……。

 

 

昨シーズンのオフにシンくんの結婚式に出席させてもらいました。その時、僕へのメッセージカードに『来年はオレらでマリノスを引っ張ろう』と書いてくれて、今年はそのカードを試合用のバッグに入れて、ずっと持ち歩いているんです。

 

 

怪我をしているのはシンくんだけではないですし、全員でF・マリノスです。ただ、同じポジションということもあって、僕はシンくんが離脱してしまった分ももっと頑張らないといけない。頑張るのは当然なんだけれど、もっともっと頑張って、優勝したい。本当に優勝したいですね」

 

 

 

 

ショーンは選手の様子を見て、気持ちを汲み取ってくれる人なので、とてもありがたかった

 

――ここで一度、時計の針を巻き戻したいと思います。今季のスタートを振り返ると、角田選手は開幕に向けて充実のプレシーズンを過ごせていたように見えました。

「1月に新チームが始動して、そのまま宮崎キャンプに入って、スムーズに準備時間を過ごせたと思っています。プロ1年目の昨季は、コロナ禍の影響もあってチームとしてしっかりと活動ができませんでしたが、今季はコンディションの部分を上げていく時間としても有意義でした。ただ、キャンプ全体は自分の中であまり手ごたえがなかったんです」

 

 

 

――それは意外です。心身ともに充実しているように見えていました。実際に開幕スタメンを勝ち取っているわけですし。

「コンディションは良かったですし、体も動いている感覚がありました。でもボールを扱うフィーリングの部分や、全体を見る視野のところ、あとはパスを受けた時に見える景色が、自分の中でちょっと違う感覚でした。ポゼッションの練習でも上手くいっている感じがしなかった。練習の段階からわからなくなってしまって、どこか違和感や不自然さを覚えながらやっていたせいか、ボールを受けるのが怖いと思う瞬間もあったりして……。キャンプ途中までは悩むというか、いろいろと考えることが多かったです」

 

 

 

 

――好転のきっかけは?

「キャンプの最後に練習試合をして締めて、そこでは自分の感覚として良いパフォーマンスを出せました。それがスーパーカップやリーグ開幕戦につながったと思います。

練習試合の前日にショーン(オントン/ヘッドコーチ)に呼ばれて話をしました。僕が気持ちよくプレーできていないことを察してくれていたみたいで、僕の良さや特長を言葉にしてくれて、もっとやれるという励ましの言葉をもらいました。その会話の中で一番心に残ったのは『自分の価値を示せたら試合に出続けられるし、示せなかったら試合に出られなくなる。それだけだ』という言葉でした。

 

 

あらためて考えると普通のことかもしれません。プロの世界では当たり前のことです。でも、その時の自分の中では腑に落ちたというか、スッキリとするものがありました。極論を言えば、パフォーマンスが悪くてもサッカーができなくなるわけではないし、このチームで居場所というか立ち位置を失うだけ。チャンスを掴めるか、掴めないか。吹っ切れたということだと思います。

とてもシンプルな言葉でしたが、ものすごく響きました。ショーンは選手の様子を見て、気持ちを汲み取ってくれる人なので、とてもありがたかった。そこからは、やるしかないなと。迷いやモヤモヤしているものが消えて、自分のプレーを出すことに集中できるようになっていきました」

 

 

 

――プロ2年目で初の開幕スタメンを勝ち取りました。

「もちろん開幕スタメンを目指してやっていましたが、事がそんなに上手く進むとは思っていませんでした。開幕戦という舞台に先発でピッチに立てたのは、自分の中ではすごく自信になりました。たかが1試合かもしれないけど、されど1試合。大きな経験を積めたなという感触でしたね」

 

 

 

開幕前後は厄年なりに上手い具合に進んでいるなと思ったけれど、ちゃんと厄がありました(笑)

 

――リーグ開幕後は先発出場を続け、チームも好調。そして3月、日本代表に初選出されました。

「サッカー選手として目指していた場所なので、素直に嬉しかったです。でも、喜び以上に驚きが大きかったですね。普段はあまり連絡を取っていないような地元の友だちや中学時代の先生なんかも連絡をくれて。驚きと同時に影響力の大きさを感じました。

だから日の丸を背負う実感が湧ききっていないまま怪我で不参加になったのは悔しかったですし、楽しみにしてくれていた人がたくさんいたので申し訳ない気持ちも大きかった。振り返ってみるとあっという間に時間が過ぎていきました。だからといって気落ちするのではなく、すぐに気持ちを切り替えられたと思います」

 

 

 

――日本代表に選ばれて、その肩書きを持つことによる変化は?

「気負い過ぎないように、でも当然のように意識しました。選ばれただけで自分は何もしていないので、そこまで気にすることなくやれていたと思います。もちろん下手なプレーはできないと思っていましたけど、そこまで変わったとは思っていません」

 

――横浜F・マリノスのセンターバックはそういう場(日本代表)にいてほしいと願っているファン、サポーターも多いはずです。

「自分が目指している場所はそこですし、いたいと思っています。いつかと言わず、常に居続けたい場所で今も狙っています。今年か来年か、またそういったところにチャレンジできるように頑張りたい」

 

 

 

――好事魔多しなのか、5月に右足の第五中足骨を骨折して離脱を余儀なくされます。アップダウンが激しい時期だったのかなと。

「良かったのは日本代表選出までですね。厄年なんです。開幕前後は厄年なりに上手い具合に進んでいるなと思ったけれど、ちゃんと厄がありました(笑)。

 

 

この怪我に関しては覚悟していた部分もあったので、メンタル的にはすぐに前を向けました。リハビリ期間中もネガティブになることなく、患部をしっかり治すことに加えて1からの体作りに取り組めました。悔しい離脱期間になってしまいましたが、その時間を長く感じることはありませんでした」

 

――苦しい感覚や時期もなかった?

「試合前日の緊張感ある空気や、ホームゲームの雰囲気を肌で感じると『なんで自分はそこに立っていないんだ』という思いに駆られる日もありました。でもチームの調子は良かったので、仲間の頑張りと試合を見ることでリハビリのモチベーションを上げられました」

 

 

 

――復帰後は右センターバックを務める機会も多かったですが、左でのプレーと比較した時にやはり景色が違うものですか?

「自分の中では空中戦に最も違いがあるのかなと。踏み切り足が違うので、体の向きや視野の確保の仕方が変わります。地上にボールがある時は、左センターバックでもカバーで右に行くことはありますし、大きな違和感はありません。ビルドアップの面でも、たしかに左より制限はありますが、鹿島戦から神戸戦と試合をこなすごとに少しずつできることも増えて、効果的な縦パスを入れられる場面もありました」

 

――ヴィッセル神戸戦といえば、やはり大迫勇也とのマッチアップに注目が集まりました。感触や手ごたえは?

「駆け引きの上手さがありました。前半の最初は右にも左にも来ていたと思いますけど、エドゥ(エドゥアルド)がPKを与えて、その後に警告を受けそうになっている雰囲気を感じ取ったのか、僕のサイドではなくエドゥの側でファウルをもらう駆け引きをして、そこからボールを展開して神戸の攻撃を前へ進めていった。個人的には、左のセンターバックで対峙してみたかったのが正直なところです。言い訳にはできませんが、左だったらどれくらいできたんだろうという思いはあります」

 

 

 

本当の意味でチームの力になりたい。そのためにタイトルが絶対に欠かせない

 

――あらためて角田涼太朗選手が考える理想のセンターバックとは?

「攻めて守れるセンターバックが一番いい。角田がいたから守れるし、角田がいたからスムーズに攻撃が進む。そんな存在になりたいです。最近はチームとして上手くいかない時間帯もありますが、自分の配給でリズムやテンポを変えられる部分もあると思うので、そこは強く意識しています」

 

――ディフェンスリーダーのような存在になってほしいと願っているサポーターは多いかもしれません。

「もう若手ではないですし、根っこの部分ではもっと自分が統率しなければいけないのもわかっています。そういった立ち位置になってきている自覚も少しずつ出てきていて、チーム全体に要求したり、言えることは増えている。そういったフェーズに入ってきている自覚もあります。プレー面だけでなく精神的な部分でやるべきことは増えていると思います」

 

 

 

――センターバックは影響力や存在感を求めたいポジションですよね。

「もちろん重要だと思いますし、そうあるべきだとも思います。ただ、自分のタイプとしては、めちゃくちゃ声を張り上げて気持ちを前面に押し出して戦うというタイプでもありません。あくまでも自分の考えですが、チームが上手く回るために気を遣える選手でありたい。だから自分が動くことが始まりというよりも、攻守両面で味方に合わせて動き、味方がやりやすいようにプレーできる選手がいい。一緒にやっていて、やりやすいと思われる選手になりたいです」

 

――日本サッカー界の流れで言えば、いずれは海外移籍という思いも?

「僕の場合、身近にいた人が世界の第一線でやっています。一番の例を挙げるとすれば筑波大学の先輩の三笘薫さんでしょうし、ジュニアユースの同期だと橋岡大樹も欧州でプレーしています。去年のワールドカップを見て、あらためて海外でプレーしたいという気持ちは強くなりました。どの国、リーグでもいいから無理してでも行きたいということはありませんが、自分のステップアップにつながるチャンスがあれば、そういった思いはあります」

 

 

 

――いつか来るかもしれないその日までに、F・マリノスでやらなければいけないことは?

「本当の意味でチームの力になりたい。そのためにタイトルが絶対に欠かせない。去年と今年では自分の立ち位置が変わっていますし、繰り返しになりますがチームに働きかけようという意識も高まっています。その中で優勝できたら、違った意味がある」

 

――運命を決めるラスト5試合が始まります。

「気がつけばリーグ戦は5試合を残すのみで、こうして考えると長い離脱期間になってしまったと感じます。チームとして何かをあきらめるような状況ではありません。自分たちはとにかく勝ち続けるのみ。優勝したいですし、優勝できると信じて、まずは次の札幌戦を全力で戦います」

 

 

(おわり)

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