下を向いている暇はない。 残り2ヵ月と少し。 トリコロールの地力とタイトルへの執念を信じたい [J29節 神戸戦レビュー]
扇原貴宏が語る神戸の強さ
悔しい結果に何人かの選手は「勝ちたいというメンタリティで相手のほうが上回っていた」という趣旨の言葉を発していた。
選手からすると試合終了直後の興奮状態である。敗因や原因を求められて言語化するのは非常に難しい。
とはいえメンタリティという抽象的なワードだけで片付けるのも、いかがなものか。プロとしてピッチに立っている以上、勝ちたいのは当たり前。数量として比較することなどできないし、昨日のマリノスが相手よりも劣っていたとも思わない。
ヴィッセル神戸には、かつてマリノスで優勝に貢献した扇原貴宏がいた。ここへきてようやく先発として出場するようになった彼は、ここまでのシーズンと昨日のマリノス戦をこう振り返る。
「優勝争いの直接対決でみんな気合いが入っていた。メンタルの部分で上回れたと思う。(個人的には)ここまで本当に苦しい時間だったけど、チームメイトや今日対戦したマリノスの選手たちの活躍が僕を刺激し続けてくれた。マリノスは大好きなチームだし、そのチームと優勝争いを繰り広げられているのは幸せなこと」
奇しくもメンタルに言及しているわけだが、コメントには続きがある。
「(神戸は)アスリート能力とメンタルの発揮の仕方が高い」
屈強かつ柔軟なポストプレーができる大迫勇也を筆頭に、出場している選手の多くはアスリート性能が高かった。マリノスはJリーグ屈指のインテンシティを誇るチームだが、その部分で後手を踏んだ感は否めない。ボディブローのように効いてきたツケが前半に喫した2つの失点だった。
メンタルの発揮の仕方については、勝負どころの機微をしているか否かとも言い換えられるだろう。後半アディショナルタイムに入り、ガス欠気味の酒井高徳がその瞬間だけ蘇ったかのようにスプリントを敢行して宮市亮を止めた。絶対に譲ってはいけない場面、瞬間を知っているプレーだ。
個の能力といっても内実はさまざま。神戸が首位に立っている強さを見たと認めざるをえない。
あきらめる状況ではない
サッカーの質や方向性でマリノスが劣ったとは思わない。序盤に松原健が決定機を迎え、18分には自陣からの華麗なパスワークで決定機を創出。積み上げてきたスタイルやこの試合に向けて準備をある程度は発揮できていたし、先にゴールが生まれていれば展開は大きく変わっていただろう。
そうならなかったのが質の不足であって神戸の粘り強さかもしれないが、だからといって下を向くわけにはいかない。攻撃の核としてチャンスを作り続けたヤン・マテウスは「相手の強さがしっかり出ていたゲームだと思うけど、試合全体としてはお互いそんなに差はなかったと思う」と言い切った。
残り試合数が減り、勝ち点が開いた。残すは5試合で勝ち点4差。直接対決が終わり、得失点差にも開きがある。難しい状況になったのは間違いないが、かといって絶望的な状況でもないだろう。渡辺皓太が「この試合が最終節じゃなくてよかった。まだチャンスは残されているし、神戸にプレッシャーをかける意味でこれからの試合を勝ち続けるしかない」と気丈に振る舞ったように、まずは残り試合を1つずつ勝っていくしか道はない。
あきらめるのは簡単だけど、そんな選手はマリノスにいない。大迫という実力者を肌で感じた角田涼太朗は「あきらめるつもりはない。ひとつずつ勝っていくことで神戸にプレッシャーをかけられるし、まだ可能性がある」と前を向いた。反省や教訓を生かす場が残されている。
何かが起きるのを待つのではなく、何かを起こしていくしかない。そのためにまずはACLで仕切り直しの1勝を手にし、ルヴァンカップでファイナル進出の切符を勝ち取る。そうすれば必ず流れは変わる。
残り2ヵ月と少し。トリコロールの地力とタイトルへの執念を信じたい。