「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

戦い方のバリエーションが増えている [1st4節柏戦レビュー] 藤井雅彦 -1,730文字-

 

とにかく試合の入り方が素晴らしかった。エリク・モンバエルツ監督はナビスコカップ・清水エルパルス戦の前半の内容に不満を抱いており、柏レイソル戦の週に入ってからも試合序盤の戦い方をポイントに挙げていた。その効果も少なからずあったのだろう。マリノスの選手たちの球際への強さと寄せの速さ、あるいは一歩目の反応は柏のそれを上回っていた。

4-3-2-1_2015 もちろんメンタルだけではない。この試合では、今季ここまでの戦い方とは違って全体のブロックを高い位置に保つことを狙いとしていた。つまり自陣で守備をスタートするのではなく、相手陣内からプレッシャーを与えるという戦略だ。とはいえ相手の最終ラインまで追いかけるハイプレスは筆者の想像以上だった。もしかしたら指揮官も驚いていたかもしれない。だが、マリノスはそれをできる。昨季まで3年間やってきたことが体に染みついている。樋口靖洋監督が残した置き土産は、確実に生かされていた。

それだけに不用意なパス交換からカウンターを食らい、そのまま先制点を献上したことは反省しなければいけない。

左サイドの高い位置でボールを持った齋藤はエンドライン際まで進出したが、ボールロストを恐れて1対1を回避してバックパスを選択。戻ってkチアボールをファビオがダイレクトで縦に入れたが、そのボールをワンタッチでリターンしたアデミウソンと呼吸が合わず相手ボールに。アデミウソンや喜田拓也、兵藤慎剛に齋藤といった前線の選手が置き去りにされただけでなく、このシーンでは三門雄大が相手エリア内に進出し、下平匠も高い位置に押し上げていた。さらにファビオも置いていかれのだから、守備者は両CBと小林祐三の3選手のみ。これでは広大なスペースを埋めきれず、カウンターからレアンドロにフィニッシュされた。

 

 

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リスク管理を忘れてしまったファビオの縦パスの判断は猛省すべきだろう。だが、個人的にはその前の齋藤のバックパスが腑に落ちない。エンドラインぎりぎりの位置なのだからボールを奪われてカウンターになったとしても自陣ゴールまで距離がある。少なくともバックパスをした地点で奪われるよりは守備に人数を割ける。ならばエンドライン際に仕掛けてCKを獲得するという選択肢はなかったのか。いずれにせよ、あの位置でバックパスを選択している齋藤に、明るい未来はない。宇佐美貴史や武藤嘉紀はあんなプレーをしない。これは齋藤自身の問題だ。できない選手に無理強いするつもりはない。だが、できる選手がやらないのは、もはや罪に等しい。

柏4-1-4-1 話を試合に戻そう。前半からハイテンポなサッカーを展開し、どこかで足が止まるのではないかと懸念していた。しかし蓋を開けてみれば疲弊していたのは柏のほうだった。マリノスのプレスに対してポゼッションサッカーを貫いたことが、結果的にボディブローのようなダメージとして効いてきたようだ。後半途中から完全に足が止まり、特に前線の選手はボールを失ったあとに戻れなくなった。その間隙を縫うように、三門の鋭いクロスから2ゴール。守備専門の小林とは違う持ち味を発揮し、逆転勝利を呼び込んだ。

大の苦手だった柏に勝ち、しかもマリノスにとっては珍しい逆転勝利。価値ある勝ち点3だが、それ以上に戦い方のバリエーションが増えていることを喜びたい。何より、この日のマリノスには躍動感があった。守ろうと思えば守れるチームだが、それならアグレッシブに守ったほうが気持ち良い。仮に負けていても、失点するまでの時間帯は称賛に値する内容だった。相手の性質やチーム状況にもよるが、今後も高い位置からボールを奪いに走るべきだ。

そして指揮官の言う通り『インテンシティ』で柏を上回ったのは、マリノスの選手の個々のポテンシャルの高さである。とりわけ運動能力の高さは圧巻で、最後まで足が止まらなかったことが勝因の一つだ。ならば、その長所を生かさない手はない。躍動感ある清々しいサッカーで勝てたことが、最大の収穫である。ネルシーニョが去った柏を“樋口マリノス”で打ち破った。

 

 

 

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