「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

単独首位をまだ手放しで喜べない [2nd4節広島戦レビュー]

 

前半をリードして折り返せたのはこれ以上ないラッキーだった。

得点シーンに象徴されるように、中村俊輔を先発起用すればセットプレーという武器が手に入る。そんなことはもう誰にでも分かっていた話だろう。左CKを起点に、アウトスイングのボールはニアサイドに飛び込んだ中澤佑二の背後からフワリと宙に舞ったファビオの頭にピタリ。試合展開や流れをほとんど無力化してゴールを奪えるのだから、やはり魅力的な武器である。

 中村はオープンプレーでも存在感を発揮した。1トップのカイケとともに高い位置をキープし、相手最終ラインの背後を狙うランニングを幾度となく見せた。富樫敬真ほどではないにせよ、この動きによって2ndステージに入ってから強調されている縦方向へのプレーをチームとして維持した。

ただし、それは前述した得点を奪うまでの話だ。1点リードしたことでチーム全体が守勢に回り、中村は以前のようなトップ下に戻ってしまった。いや、正確にはトップ下ではなく中盤のフリーポジションである。結果的にそれまでプレッシャーをかけられていた相手のビルドアップを制限できなくなり、自由にボールを動かされた。マリノスは自陣に釘付けとなり、前からプレッシャーをかけられない。すると最終ラインを押し上げることも難しくなった。

後半に入ってからはその状況がさらに顕著となり、完全な防戦一方に。両CBの中澤とファビオの奮闘でどうにか粘っていたが、そこはさすが前年度チャンピオンと森保一監督である。サイドを突破するためにミキッチという“槍”を投入し、ゴール前で仕留めるためにフィニッシャーの佐藤寿人を起用する。高さとヘディングを武器とする皆川佑介も右に同じだ。その交代策が見事にハマり、81分と83分にマリノスは瓦解した。それまでどうにか持ちこたえていたが、踏ん張りきれなくなったという言い方が正しい。

その後、小林祐三の鋭いクロスから伊藤翔がストライカーらしさを発揮して同点ゴールに追いついたのは、もしかしたらこの試合最大の収穫かもしれない。これで伊藤は今季リーグ戦3点目となったが、その3点とも途中出場でのゴールである。短い時間でも結果を出せるストライカーとして進化を遂げているのか。いずれにせよカイケや富樫敬真とともに、FWがゴールという結果を残すのはチームにとって明るい要素だ。

 

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 しかしながらチームとしては“足踏み”の引き分けとなった。なんとか勝ち点1を奪い、川崎Fや浦和も引き分けたため単独首位に。それを手放しで喜べないのはサンフレッチェ広島が「本来の姿ではない」(小林)から。そして年間順位で上位に進出するには、勝ち点で上回っているチームに勝たなければいけない。川崎Fや浦和も引き分けた。ここで勝ち点3を手にする意味は、2ndステージ開幕から4連勝と同時に、年間順位という観点でも大きかった。

結果で上回れず、内容面でもけが人過多に苦しめられている広島を上回ったとは言い難い。采配やマネジメントでは完全に後手を踏んだ。リーグ戦では、トーナメントと違って対戦相手に恵まれて優勝争いに絡むことはできない。一過性の勢いではない強さは、まだ身についていない。

 

 

 

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