「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

最後に決めたのは齋藤。新エースと呼ぶにふさわしい、魂を感じさせる一撃 [1st3節新潟戦レビュー] <無料記事>

 

外国籍監督ならではの思い切った采配だった。開幕から1分1敗と未勝利の苦しい状況で迎えたゲームで、ルーキー二人をスタメンデビューさせた。そのうちの一人はプロの公式戦に出場したことすらない、それどころかベンチ入りも未経験の18歳だった。チーム状態が良ければ経験のない選手も前向きにプレーできるかもしれない。しかしチームは早くも窮地に立たされている。ポテンシャルの有無ではなく、彼らが自身の力を発揮するのは非常に難しいシチュエーションに思えた。

 その状況で、まずストライカー・富樫敬真が大仕事をやってのける。下平匠からのパスはその後の出来事を想定したパスではなく、富樫の足元を狙うくさびのパスだった。相手CBの対応が悪く、背後のスペースを狙える状況であることを察知した富樫は、巧みなブロックでDFを無力化し、相手GKとの1対1に持ち込む。そして本当にすごいのは、そこからだ。あの左足シュートは、誰にでもできる芸当ではない。ファーサイドのポストの内側に当たってゴールネットを揺らしたシュートは、GKにとってはノーチャンスである。

もう一人、遠藤渓太もたくさんのチャンスに絡んだ。ハイライトは齋藤学の長いドリブルからのスルーパスを受けてシュートを放った55分の場面だろう。シュートこそ、的確なタイミングで前に出てコースを狭めた相手GKの好セーブに阻まれたが、ゴールシーンを除けばこの日最大の決定機だった。最終局面でエネルギーが残っていないのは、彼がまだ高校生を卒業したばかりのフィジカルレベルだから。スピードはプロの大人相手でも十分に通用するレベルにあり、今後の課題は明白だ

遠藤については、富樫のように目に見える結果を残したわけではなく、ボールを失うシーンも多かった。だが、彼はやり続けた。ミスを恐れることなくチャレンジし続けた。そのメンタルの強さはまさしくプロといえる。中町公祐は遠藤について「ボールロストが多いと言えばそこまで。でも必死に自分の良さを出そうと走っていた。ルーキーだから多くを求めるのではなく、できることをやってほしい」とフォローした。中澤佑二や中村俊輔や遠藤の頑張りを認めた。それは遠藤にとって大きな財産となるだろう。

 指揮官の采配について一つだけ注文をつけるとすれば、それは開幕戦と第2節でそれぞれ先発出場した天野純と前田直輝の扱い方である。両者ともに先発したゲームで途中交代し、次節はベンチ外となった。パフォーマンスが物足りなかったのは間違いないが、起用責任がなかったとも言い切れない。使った選手が活躍したときだけ『采配的中』という文字が躍り、不発に終わればメンバーから外すでは、公平性を欠く。信頼関係も生まれない。天野や前田が今後の練習で奮起し、アピールし続けることを前提として、今後の起用法に注目したい。

試合の話に戻ると、最後に決めたのは齋藤だった。新エースと呼ぶにふさわしい、魂を感じさせる一撃だった。ゴールシーンに形式など関係ない。ドリブルで何人も抜いて豪快なシュートを決めたとしても、新潟戦のような泥臭いゴールでも、同じ1点だ。むしろこぼれ球に素早く反応してねじ込んだことに価値がある。お世辞にもシュートが上手とはいえない齋藤がゴール数を伸ばすには、このような形を増やすのが最も効率的である。

ようやく出た2016年の“初日”。とはいえ攻撃面で抱える課題がすべて改善したわけではなく、対戦相手に救われた部分もある。大きな1勝だが、まだ1勝だ。ここで得た成果と教訓を次節以降に生かし、勝ち星を積み上げていきたい。

 

 

 

 

 

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