「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

支払った高い授業料 [J5節鹿島戦レビュー] (藤井雅彦) -1,635文字-

 

鹿島アントラーズ戦が初観戦のファンにとっては、まずまず楽しめるゲームだったかもしれない。序盤からマリノスが前方向にアクションを起こそうとしていたのは、見ている人にも伝わったのではないか。「前への姿勢は示せたと思っている」(樋口靖洋監督)。創造性溢れるチームではないのが惜しいところだが、それなりの躍動感はあった。そして看板選手を起点とするセットプレーで、代表に選ばれても不思議ではない生え抜き選手の得意技で先制する。強風には困ったものの、気温も上がって春の陽気に包まれたサッカースタジアムは、やはり最高だ。そんな感情を抱いた人はリピーターになるかもしれない。

4-2-3-1_兵藤藤本 筆者が『楽しかった』とする比較対象は前節のヴァンフォーレ甲府戦である。樋口監督が「つまらなかった」と吐き捨てたゲームは、たしかにとても退屈だった。現場にいた感想としては、シュートの有無よりも勝利への熱が感じられなかったことに失望した。鹿島戦ではゴールするためにボールを奪い、ボールを持てば相手ゴールを目指す。前節からの反発力を示せたことに対して、とりあえずは安堵した。

しかし、勝てなかった。狙いとするサッカーを90分間持続できず、後半は息切れしてしまった。あるいは失点によるダメージが大きすぎたかもしれない。鹿島側は狙っていないパスが偶発的に味方の足元に入り、マリノスとしては完全に間隙を突かれてしまった。事故で片付けるべきではないが、少々の不運は間違いなかった。サッカーにおける積極性のバロメーターがシュートだとするならば、後半はずっとシュートを打てなかった。後半最初のシュートは80分を過ぎてからで、それも富澤清太郎のミドルシュートだった。

前半のサッカーはいまのマリノスにおける普段着と言えるだろう。だからこれからも続けるべきで、決して忘れてはいけない。中村俊輔は宣言どおり「前で我慢する」プレーを貫いた。ボールに触る回数こそ減ったが、高い位置に人数をかけることができたのは彼のポジショニングによる部分が大きい。とはいえ、それも失点するまでの話で、その後はこれまでどおり下がってしまった。勝つために、後半の最初からそうしたプレーをするのは一手だったかもしれない。だが、結果論だけで語ってはいけないだろう。

 

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鹿島4-2-3-1

とはいえ今後に向けた教訓にすべきゲームでもある。サッカーは刻一刻と状況が変化するスポーツだ。スコア状況はその最たる例で、時間帯や相手の選手交代によっても当然、戦い方が変わってくる。一言で表現すれば「ゲーム運び」(栗原勇蔵)という課題である。それを中村任せにしてはいけない。ベンチワークももちろんだが、まずはチーム全体で意識を統一する必要があるだろう。誤解を恐れずに言うならば、鹿島戦の後半は退屈なサッカーで逃げ切るという選択肢もあったわけだ。ただ、最初からそれではまずいということ。甲府戦のように我慢しなければいけないシチュエーションもある。

連敗は痛い。シーズンのどこかで負けたとして、連敗なくシーズンを終えることはできる。昨年のマリノスは最後まで連敗を回避し続けたから優勝争いを演じられたという見方も間違いではない。そしてタイトルを狙うならば序盤とはいえ3連敗は絶対に許されない。それを回避するために、甲府戦と鹿島戦で支払った高い授業料を無駄にしてはいけない。

 

 

 

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