「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

要所で力の差を感じさせる2-1も悪くない -藤井雅彦のエクスプレスレビュー[天皇杯・横浜FC戦]


小さくて大きな差

お世辞にも圧倒的な差を見せつけたとは言えない結果であった。相手が直近のリーグ戦から大幅にメンバーを落としているにもかかわらず、ほぼベストメンバーのマリノスはオープンプレーで1点も取れなかった。

各方面で称えられている中村俊輔のFKにしても、相手GKの拙さが招いた結果でしかない。25メートル以上あったであろう1点目で相手GKの逆を突いてファーサイドに決めると、2点目は「普通に蹴った」(中村)。1本目の残像があった相手GKは反応が遅れ、際どいコースではなかったにもかかわらず悠々とゴールできた。関憲太郎は横浜FCの控えGKで、これがJ1のレギュラーGKであれば、まず1本目がなかった。必然的に2本目のFKもなかった。

ただし、こういった局地戦における小さくて大きな差の積み重ねが勝利の背景にある。中村の2ゴールはそれが最良の結果として出た象徴的な場面であり、ゴールこそならなかったが相手との差を感じさせるプレーは随所に見られた。

例えば小野裕二や齋藤学のプレーである。またしても彼らにゴールは生まれなかった。前者は試合前日の練習後に頭を丸める気合いを見せたが、それも実らず。だが、ボールを持って前へ突き進む推進力は普段以上のパワーを感じさせた。彼自身のモチベーションが高かったのも間違いないが、対戦相手の強度にも問題がある。J1であれば小野がボールを持ってあれだけ前へ突き進めるのは稀だ。中村の2点目となるFKを獲得したのは小野である。

また、齋藤にしても「J2相手だと余裕を持ってプレーできる」と久しぶりに笑顔を見せた。ゴールやアシストこそなかったが、自分のプレーに及第点を与えているようで、取り組んでいるプレーを表現できたという手ごたえがあったようだ。もちろん「結果を残さなければいけない」という責任感も忘れておらず、満足はしていない。それでも、このゲームをきっかけに浮上していくのではないか。具体的に言えば、ボールを受けて前を向くなど、狭いエリアで相手と駆け引きできていた。技術的な問題だけでなく、精神的な余裕がそれを可能にしたのは言うまでもない。

守備面も同様で、中澤は言う。「J2だからといって大きな差があるわけではない。ほんの少しの精度の差」。マリノスがボールを奪われた場面で、横浜FCがボールキープして攻撃に移る作業は容易ではなかった。マリノスは切り替えの早さで先手を奪い、威圧感を与えた。すぐにマイボールにすることで攻撃回数が増え、少しずつではあるが相手を追い詰めた。その結果がセットプレー獲得なのだから、マリノスのほうが多く得点したのは必然でもある。

ゴール裏のサポーターは満足しないスコアだったかもしれない。しかしながら期待値の高さの正体は2007年の8対1であり、その再現は容易ではない。当時とはチームの性質が大きく異なり、早野宏史監督率いる当時のチームは型にハマったときに“無双”となった。ただオールコートプレスが空振りに終わると、守備陣は大ピンチにさらされた。まさに“諸刃の剣”と言える戦術で、ハイリスク・ハイリターンであった。

対して、いまのチームは堅実だ。良くも悪くも相手なりに戦う傾向にある。強さを発揮するのは鹿島アントラーズ戦がそうだったように、粘り強さと集中力が求められる展開で、大味なゲームには向かない。それは早野監督と樋口靖洋監督の人間性の違いとそのままリンクするかもしれない。

8対1は爽快であった。だが、要所で力の差を感じさせる2-1も悪くない。いまのチーム“らしさ”が出たという意味で、マリノスはやるべきことを完遂した。サポーターはニヤリとほくそ笑めばいい。

 

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