「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

決勝トーナメント進出が見えてきたことを喜びたい [ナビスコ予選4節湘南戦レビュー] (藤井雅彦)

アルビレックス新潟戦に負けず劣らずの雨量だった。強風の影響を含めると新潟戦よりも状況は悪かったかもしれない。BMWスタジアムの芝生が素晴らしく整備されていたのがせめてもの救いだったが、サッカーをするのに難しいピッチコンディションだったのは間違いない。マリノスの選手たちは終盤になっても滑って転倒する選手が複数いた。

そんな状況下で行われたゲームの手ごたえについては「今日は分からない」(中村俊輔)という判断が適切だろう。悪天候を差し引いて考えなければならず、湘南ベルマーレも含めて持っている力をすべて発揮できたとは言い難い。これもサッカーと言えばそこまでだが、言い訳無用の状態で戦ったほうが勝者も敗者も気持ちが晴れる。少なくとも、あの状態でチームの機能性を語るのは難しい。

そんな試合を決着させるのは突出した個であり、少ないチャンスを決める能力だ。振り返ればリーグ戦の連勝が止まった新潟戦では、前半終了間際の決定機で兵藤慎剛のシュートが枠を捉えきれなかった。対して、この日は44分に訪れた千載一遇のチャンスにマルキーニョスがきっちりゴールという答えを出した。兵藤を非難するのではなく、助っ人ストライカーの決定力を褒めるべきだろう。「ここぞという狙い所を外さない経験値の高さを感じた」(樋口靖洋監督)。これぞ実績の成せる業である。

試合全体を通してマルキーニョスの出来が優れていたわけではない。巧みなボールキープを見せる以上にマイボールを失う回数が多かった。この日はイングランド人の主審の判定と自身の感覚が合わず、相手DFのファウルをなかなか認めてもらえなかった。「マルキあたりは苦戦していた」(栗原勇蔵)とチームメイトが語るように、苛立つ場面もしばしば。シュートはゴールとなった場面の1本のみである。

注目された藤田祥史との2トップも相変わらずの不発に終わった。コンビネーションが皆無に等しく、中盤でボールが回らない展開ではサイドからのクロスも入らない。藤田の良さが生きる展開にならず、2トップは効力を発揮できなかった。それでもゴールシーンだけ切り取ればクロスに対してゴール前の枚数が増えたことに意味がなかったわけではない。そのあたりの評価は難しいところではあるが、中村俊輔からトップ下のポジションをわざわざ剥奪してまで継続する意味があるのかどうか。

その中村は61分からの出番となった。ナビスコカップ第3節・大宮アルディージャ戦では同じくベンチスタートながら、前半を終えて0-1とビハインドだったためチームが勝つために後半開始からピッチに立った。しかしこの日は前半を終わった1-0。リードしている展開で出番がないかと思われたが、樋口監督は残り約30分で中村を投入した。これは湘南戦で勝ち切るためだけでなく、「[4-4-2]の中であのポジションに入れてやりたかった」という狙いがあった。つまり甲府戦やそれ以降を見据えた采配だったというわけだ。しかしながら、悪天候や対戦相手、そして試合状況らを複合的に考えると参考になったかどうか。

そういった内容も大切なのだが、週末のリーグ戦を見据えつつも、しっかり勝ちきったことをまずは評価したい。「今日は内容よりも結果が大事だった」(栗原)。新潟に敗れたショックを払拭するために必要なのは勝ち点3のみ。悪天候だろうが、相手が昇格組の湘南だろうが、関係ない。悪い流れを断ち切り、次の試合に気持ち良く臨むために勝利が必要だった。負けていれば連戦と悪天候によって疲労が倍増していたことだろう。勝ったことでプレッシャーから解放され、精神的にはフレッシュな状態で次に臨める。

内容的に圧倒したわけではない。シュート数を見ても、両チームともに8本ずつで決定機と呼べる場面は互いにほとんどなかった。だが、たった一度のチャンスをしっかりモノにするあたりは、まさに強者の戦いぶりである。逆に接戦を演じながらも前半終了間際という時間帯に失点した湘南は、おそらく今後も苦しい戦いを強いられるだろう。サッカーにおいて勝敗を分けるのは局面でのワンプレーで、そこでの結果がすべてだ。「小さいかもしれないけど大きな差を見せることができた」という中町公祐のコメントが指し示すように、明暗くっきりである。

マリノスは6連勝中のような勝負強さを見せ、ナビスコカップの予選リーグ突破に大きく前進した。連敗を回避するとともに、決勝トーナメント進出が見えてきたことを喜びたい。

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