「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

あの11人は適当だったのか :藤井雅彦 柏戦レビュー

 

勝負どころで勝てない非力さは変わらない

本戦のプレビューでも述べたように、柏レイソル戦に至るまでのチームの流れはとても良かった。リーグ終盤を迎えて、選手個々のコンディションとパフォーマンスが比例するように上がり、チームとしても攻守ともに明確な狙いを持ってプレーできていた。だからこその最近6試合負けなしの3勝3分という成績である。

そんな状態だからこそ、過信は禁物だったのかもしれない。試合当日はまさかの土砂降りで、日産スタジアムの芝はほとんどボールが走らない状態だった。これではスムーズなパス回し遂行するのは不可能に近く、実際に対戦相手はセーフティーファーストの戦い方を選択していた。もっとも、柏というチームは攻撃のギアチェンジが行われるのは天候に関わらずレアンドロ・ドミンゲスにボールが入ったときのみ。そして、レアンドロだけは劣悪なピッチコンディションをものともせず、高いスキルを発揮した。対してマリノスはマルキーニョスや中村俊輔でさえも、普段通りのプレーとはいかなかった。

そういった状況下で並べるスタメンとして、あの11人は適当だったのか精査すべきだろう。試合環境を考慮すると、球際やセカンドボールがフォーカスされる展開になることは容易に想像でき、ならばボランチは兵藤慎剛、あるいは谷口博之という選択肢が浮上したはず。ただでさえ富澤清太郎を出場停止で欠き、明らかに高さを欠いていた。そして、あの天候である。成長著しい熊谷アンドリューはまだ若い。リズムに乗れないゲームでは力を出せずに終わることも多い。柏戦での熊谷はお世辞にも良いプレーをしたとはいえず、後半には案の定、不必要な警告を受けた。状況にかかわらず安定したプレーをできるのは兵藤や谷口だったはずで、当日の天候を見てスタメン変更する必要性があったのかもしれない。

高さを欠き、ピッチコンディションが悪い。そんな展開でセットプレーが明暗を分けるのはサッカーの常識である。「この雨なのでセットプレーやミスが失点につながるのは分かっていた。だからこそ痛かった」と肩を落としたのは青山直晃だ。1失点目は、サイドとはいえ明らかに要らないファウルだった。結果的にO.Gとなったが、金井貢史とジョルジ・ワグネルのマッチアップは明らかなミスマッチである。中澤佑二が増嶋竜也、青山直晃が近藤直也をそれぞれマークしたが、マリノスの3番手は174cmとDFとしては小兵の金井で、左足だけでなくフィジカルにも優れるワグネルのマークは荷が重かった。O.Gは不運という見方もあるだろうが、真実はそうではない。マークすべき選手とゴールの間に入るのがマークの基本であり、金井は一瞬だが振り切られてしまった。そのために無理な体勢でのクリアを強いられ、そのボールが自陣ゴールネットに吸い込まれたのである。技術的な観点がすべてで、あのシーンは金井のマークミスと見るのが妥当だ。

2失点目も相手の技術レベルの高さやコンビネーションの良さを語る以前に、自分たちに非がある。相手ボールになった瞬間、「全体的に足が止まってしまった」(中澤)。チーム戦術の肝となっていた“攻守の切り替え”が忘れ去られ、レアンドロの単独ドリブルを許した。さらには中盤の戻り、あるいは逆サイドの絞りも遅く、ゴール前で彼をフリーにしてしまっては失点は免れないだろう。いとも簡単に決めたように見えたシュートだが、スリッピーなピッチで確実にインサイドでミートする技術はかなりのハイレベル。「正直、あれはうまい」とGK榎本哲也が脱帽するのも無理はない。それよりもシュートを打たせたことに端を発した失点である。

思い返せば、開幕戦と同じ失点パターンだ。3-3-のあの試合は、開始早々にレアンドロのFKからワグネルを経由して酒井宏樹に詰められた先制点と、後半にレアンドロにファインゴールを許した。今回とほぼ同じようなシチュエーションである。繰り返された失点シーンから、マリノスの成長のなさと修正力の低さが浮き彫りとなった。

シーズン終盤に差し掛かり、チームとしては緩やかに進歩しているのは間違いない。ただ、勝負どころで勝てない非力さはまったく変わらない。大事な場面で冷静かつ非情になれないようでは、成功をつかむことはできないだろう。残ったのは虚無感だけだ。「こういうゲームをやってしまうのはACLにトライするチームではない」。大雨の日産スタジアムに、中澤の的を射たコメントが響き渡った。

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