【無料記事】【SBG探偵局】file1『息子の小学校入学』(2016/05/27)
■もしヴェルディのシャツを着た子が
探偵は言った。「何事も始めが肝心です。僕の写真、探偵っぽく見えるように撮ってくださいね」。何枚かシャッターを切った助手は言った。「不審者にしか見えません」。
時刻は15時15分。探偵と助手は校門近くの石段に腰かけ、辺りの様子を窺うことにした。入り口の向こうに警備員が見えるが、こちらを警戒している様子はない。ひとまず作戦は成功である。
「さて、助手さん。われわれはこれから子どもたちの聞き取り調査をゲリラで行います」
「校庭でサッカーをしている子どもがけっこういますね。でも代表ユニばかり」
「はたして、FC東京ファンの子がそんなに多いのか。もしヴェルディのシャツを着ている子がいたら迷わず確保です」
「そんなのいるわけないじゃないですか」
助手はへっと笑った。そこで、何かを見つけた探偵が身を乗り出して言う。
「ほら、あっち。緑のキャップをかぶっている子がいる。アスレタじゃないですか」
「よく見なさい。アディダスです」
「あ、あの子は緑のラインの入った……」
「人に向かって指を差さない」
助手にぴしゃっと言われ、探偵はしゅんとなる。助手はおっとりした見かけとは裏腹に、性格がきつく、めっぽう気が短い。だが、鋭い観察眼を持っていた。「パナソニックの自転車。アンブロのシャツ。あれはガンバですね」と素早く分析する。