【SBG探偵局】file5『平だけど坂好きとは、これいかに』(18.9.12)
file 5 『平だけど坂好きとは、これいかに』
ちっちっちっち。探偵は腰をかがめ、民家の軒先に向かって口を鳴らす。視線の先にあるのは、ベランダで優雅に横たわる猫である。明るい茶色で、毛足が長い。
やがて、猫は柵をするりと抜け、こちらのほうへとやってきた。探偵の足下をゆっくり回り、身体をこすりつけてくる。ネットで調べ、マーキングの一種であること、それなりに親しみの込められた行為であることを知った。
首回りを手でなでてやると、猫は目を細める。夕刻、互いのタイミングがあったとき、こうして近所付き合いをするようになってまだ間がない。この夏、探偵の身に起こった唯一と言える好事だった。
事務所に戻ってドアを開けた途端、飼っている白文鳥の文太がピーピー啼いてやかましい。おやつのトウモロコシの要求だ。はいはい、遅くなってごめんなと入れてやった。取り立てて動物好きではないのに、話し相手が動物しかいない。どういうことだ。
ここ一年、あまりにもひまで、探偵以外の副業で糊口をしのぐ日々であった。もう潮時かなと思いかけたところ、ひょっこり依頼が舞い込むのが常である。差出人は、S.O.。
こんばんは。どうやら平智広選手が乃木坂46、欅坂46のファンらしいと聞きました。自分も乃木坂、欅坂の曲が好きなんですが、平選手の好きな曲や推しメンを聞いてほしいです。
ちなみ自分の好きな曲は乃木坂46の『きっかけ』、『君の名は希望』、『ハルジオンが咲く頃』、『サヨナラの意味』。欅坂46は『風に吹かれても』、『避雷針』です。
よかったら聴いてみてください。
では、よろしくお願いします。
チンプンカンプンだ――。とりあえず、探偵は助手に連絡を取った。自分よりひと回り以上若く、知っていることはあるだろう。付け焼刃だろうと予備知識を入れておきたかった。
「坂道シリーズはあんまり知らないんですよね。乃木坂はなんとなくわかりますけど。ももクロじゃダメですか?」と、助手はいきなり無茶なことを言い出す。
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