HAMABLUE PRESS

長谷川竜也、奮闘……J2開幕節・大宮戦マッチレビュー

 

しかしいわゆる『2点差は危険なスコア』がここで発動。2点をリードした精神的余裕か、それとも前半から飛ばした体力的な問題か、横浜FCのギアは落ち、逆に追いかける大宮のギアが上がった。さらに55分、大宮が富山貴光を投入したことで流れが一気に変わる。前線で機動力を出せて空中戦も厭わない富山が入ったことで、大宮はロングボールを増やしてそこからプレッシャーをかけて押し込む戦術に変更。また本来のインサイドハーフに移った矢島が、間延びしてきた横浜FCの守備網の間で輝きを放つ。61分に矢島のクロスから茂木力也、64分には茂木のクロスを矢島が決め、大宮があっという間に同点に追いついた。

同点に追いつかれた四方田監督は67分に安永玲央と伊藤翔をピッチに送るが、これはさほど効力を発揮しなかった。72分、大宮はロングボールに河田が競り、こぼれ球を富山がシュートに持ち込む。際どいコースに飛んだシュートはポストに当たって跳ね返り、スベンド・ブローダーセンが大事に抱きかかえた。

78分、さらに指揮官は決断する。高さのクレーべと、“猟犬”山下諒也を投入。「もう一点取って勝て」という明確なメッセージだ。「自分たちが最終ラインでボールを持ったときに相手のプレッシャーも高かったので、それを逆に利用して、自分はターゲットマンとして前で受けて落として、そこからの攻撃を考えて入った」というクレーべは、前線で無双の強さを発揮。大宮のCBをガッチリ押さえつけ、頭でなく胸でボールを落として中盤の選手に渡して展開。これで全体が押し上がり、流れを互角に引き戻した。

 

▼劇的なロスタイムの決勝弾。選手層の厚さを生かし勝ち切る

猟犬のほうはスペースではなく足元でもらう場面が多く、スピードを発揮しきれないでいた。それでも90分、1対1からスピードで千切ってクロスを上げてみせたが、ファーで合わせたヘディングを枠に飛ばせず、長谷川は天を仰いだ。

これは引き分けの流れか……と受け入れかけたロスタイム。時計では90+2分のこと。キャプテンマークを巻き、誰よりも諦めていない男がそこにいた。終盤、後方からボールを引き出そうと、相手の守備の間から何度も顔を出すが、その長谷川にボールが出る回数は決して多くなかった。おそらく川崎なら出てきたのだろう。いかにももどかしそうな表情で、それでも動き出しをやめなかった。

その瞬間だけは守備の間ではなく、自陣側センターサークルまで降りてきてボールをピックアップした背番号16は、そこまで一度も見せなかった、強引なドリブルを開始する。ターンで一人、寄せてきた二人、三人とかわして右へ流れ、山下諒也に預けてリターンをもらいに動く。ボールは帰ってこなかったが、ここまでで彼の仕事は完成していた。

長谷川に引き寄せられ、大宮の守備バランスは崩れていた。山下がペナルティーエリア内の伊藤に鋭く打ち込み、前方のスペースにスプリントをかける。引きつけた伊藤から、意外性のあるヒールパスが猟犬のねらうスペースに流された。完全に後手を踏んだ大宮CBが、走り込んだ山下の足を引っかける。大宮にとっては無情の笛。クレーべがきっちり沈めて、撃ち合いに終止符が打たれた。

試合後の四方田監督は、「良かったなというか、ホッとしたのが正直な気持ちです」と率直に打ち明けた。「若い選手が戦っているので、まだまだムラがあるというか、良いときは良いけど、うまくいかなくなったりすると耐えれないところがトレーニングや練習試合から見受けられる」というのが、まさに後半の展開だろう。それでも敵将・霜田正浩監督が「横浜FCさんのように後からああいう選手が出てくるとか……」とやるせなさを感じさせるコメントを残したように、選手層の厚さを生かして勝ち切ったことは大きい。

その四方田監督が相手ベンチにいた開幕の札幌戦を1-5で大敗し、そのまま歯車が噛み合わず6連敗して降格に至った昨季のことはまだ記憶に生々しい。開幕戦を勝つことの大事さは、「なるべく1/42の試合だと考えるようにしている」と冷静な指揮官よりも、昨季もいた選手や横浜FCサポーターのほうが肌身に染みている。

まあそんなことより、何よりこの試合は長谷川竜也だ。一つ一つのプレーのクオリティが別格だったのはもちろん、文字通りプレーでチームを引っ張った。実は取材メモには、長谷川のドリブルの場面以降は何も書かれていない。最後に残っていた言葉は、『長谷川、奮闘』。キャプテンマークを巻いた背番号16は、小さな背中でこの試合のすべてを背負ってみせた。

(文/芥川和久)

前のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ