【Gマガ】前橋育英、悲願の全国制覇! 山田耕介監督、男泣き。カンピオーネの刻印
前橋育英、悲願の全国制覇!
山田耕介監督、男泣き。カンピオーネの刻印
全国高校サッカー選手権決勝
【結果】
前橋育英 1−0 流通経済大柏
前半(0−0)
後半(1−0)
【得点】
90分+2分:榎本樹(育英)
8日、全国高校サッカー選手権決勝・前橋育英対流通経済大柏が行われ、前橋育英が後半アデショナルタイム弾で1−0の劇的な勝利。選手権21度目の出場で、悲願の全国制覇を成し遂げた。前橋育英の決勝進出は2年連続3度目、去年は決勝で青森山田に敗れていた。昨年の屈辱を糧に、立ち上がったチームは先人たちの涙を力に変えて、高校サッカーの頂点に立った。
2009年の夏インターハイ。育英は、3年生・中美慶哉(金沢)、2年生の小島秀仁(千葉)、小牟田洋佑(ザスパ)ら世代屈指のタレントを擁して初の全国優勝を成し遂げた。当時の選手たちは山田監督を胴上げしようと試みたが、気づくと、指揮官はあっさりとグラウンドから引き上げてしまっていた。
「インターハイの優勝はもちろんうれしいが、まだ“次”がある」(山田耕介監督)。指揮官は、選手権に照準を定めていた。
育英は2014年にベスト4の壁を乗り越えて初の決勝進出。しかし星稜(石川)に敗れた。去年は2度目の決勝だったが青森山田(青森)に0−5で完敗。優勝旗をつかむことなく、スタジアムをあとにした。
「あの戦力で勝てないのか」「育英は、大舞台で勝てない」。周囲からはそんな声も漏れていた。チームは、そのすべてを受け止めて今季に臨んだ。そして迎えた3度目の決勝。もう銀メダルはいらなかった。
運命の一戦は、黄色の黒のフラッグが一斉に揺れる中、キックオフとなった。
準決勝まで大会最多得点の育英に対して、大会無失点の流通経済大柏。ゲームは序盤から、攻める育英、守る流経の展開となった。
準決勝までとは明らかに、質の違う戦い。
流経は、育英のエース飯島陸をマンマーク対応した上で、守備ブロックを敷いた。育英は、立ち上がり、流経の激烈なプレスに対して自由を奪われたが、セットプレーからチャンスをうかがっていく。
時間の経過とともに育英は、ボールを動かし、流れの中から決定機を作り出す。しかし、シュートが赤い壁に阻まれる。前半終了間際には、飯島のシュートがポストを弾いて、ゴールを逸れた。前半のシュート数は育英の2本に対して、流経が1本となった。
後半も攻守の関係は変わらなかった。育英は、敵陣に引く流経に対して波状攻撃を仕掛けていく。63分には、五十嵐理人のシュートがバーをかすめるなど、どうしてもゴールを奪えない。
指揮官は、ここで選手交代に出る。
五十嵐に代えて、宮崎鴻を投入。これまでであれば、FW榎本樹OUT FW宮崎INが定石だったが、榎本、宮崎のツインタワーを前線に配置、マークを受ける飯島を2列目に下げて、勝負を仕掛ける。結果的に、この策が的中した。
スコアレスで進んだゲームは、ゴールが生まれないまま45分へと針が進む。会場スクリーンに掲示されたロスタイムは3分。延長戦も想定されたが、クライマックスはアデショナルタイムに待っていた。
執念の攻撃を続ける育英は後半47分、田部井涼主将が前線に滑らかな浮き球を送る。それを榎本がヘッドで反らして飯島へ。飯島のシュートは相手DFにブロックされたが、そのこぼれ球を榎本が右足で蹴り込んで、激闘に終止符を打った。「先輩たちのためにも決めたかった」(榎本)。
直後に、試合終了を告げるホイッスルが響いた。それは育英が、頂点へ駆け上がった瞬間だった。
控え選手たちは一斉にピッチに流れ込み、仲間たちのもとへ走った。山田監督は即座にコーチ陣へと視線を移し、抱擁をかわした。1982年の監督就任から36年、当時まったくの無名だった育英を全国強豪へ伸し上げた指揮官は、監督インタビューで、こみあげる涙を抑えることができなかった。
男泣き。
「延長を覚悟していたが、選手たちがよくやってくれた」(山田監督)
指揮官は、選手たちの手で3度、宙を舞った。もう、胴上げを拒む理由はない。それは、道なき道を歩んだ男の集大成だった。
96回全国高校サッカー選手権は、育英の優勝でその幕を閉じた。選手たちは、黄色の黒の歴史に、「カンピオーネ」(チャンピオン)の刻印を打ち付けた。
(伊藤寿学)