「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

筆者もこの敗戦を消化しきれていない [1st9節湘南戦レビュー]

 

樋口靖洋前監督時代は、試合中のPKキッカーが試合前にある程度決まっていた。それは指揮官が指名する方法で、当時は中村俊輔やマルキーニョス、あるいは兵藤慎剛がキッカーとしての序列で上に位置していた。しかし、エリク・モンバエルツ監督はそういった手法をとらない。ピッチ内での自主性を重んじ、選手たちが各々の判断で決める。

 湘南ベルマーレ戦の場合、選択肢はおそらく3つあった。まずは前節のサンフレッチェ広島戦でPKを決めている中村俊輔、2つ目はPKを獲得した齋藤学、そして最後に途中出場ながら助っ人ストライカーという立ち位置のカイケである。ピッチ内での詳細なやり取りは本人たちにしかわからない。ただ結果として言えるのは、中村と齋藤がカイケにキッカーを譲ったということである。

カイケのシュートそのものは、決してクオリティの低いものではなかった。その点で「カイケのキックは悪くなかったと思う。ただ相手のGKが良いプレーをして止めた。PKを失敗したというのではなくGKが素晴らしかったと思う」というモンバエルツ監督の言葉は正しい。あのプレーだけを切り取るならば、カイケを責めるよりもGK村山智彦を褒めるべきだ。

それでもなお悔恨の意があるとすれば、このゲームだけは絶対に落とせなかったからに他ならない。広島に敗れ、連敗だけは許されなかった。勝ち点3のみが目的で、それ以外の結果は1stステージ優勝争いの脱落を意味していた。

『中村俊輔ならば決めていた。もし中村俊輔が蹴って外したのであれば納得できる』

 こんな見方をしている人間は、かなり多いはずだ。キックの名手であり、これまで幾多の修羅場をくぐり抜けてきた男である。同時に主将であり、大黒柱であり、クラブの顔でもある。彼への期待値が高いがゆえに、助っ人ストライカーの失敗を上手に消化できないのだろう。

試合後、中村はさばさばとした表情で報道陣の前に現れた。

 

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「そんなに大きなことではない。結果がこうだったから、周りはいろいろ言うだけ。いまは不動のFWがいないから、(カイケに)決めてノッてほしかった」

 そう、シュートが決まっていれば何事もないワンプレーだった。そしてマリノスは逆転勝利へのシナリオに向けて歩を進めただろう。しかし、それができないのもサッカーの常だ。「PKを止められたのは初めてではないし、最後でもないと思う。サッカーの世界では起こりうること」と視線を上げるカイケのメンタリティは、まさしくストライカーだった。

実のところ、筆者も昨日の敗戦を消化しきれていない。ただし、である。冷静な表情の裏で、誰よりも昨日のゲームを悔しく思っているのは、PKを譲った背番号10ではないだろうか。

 

 

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