「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

曇り空のまま [ACL4節メルボルン戦レビュー] (藤井雅彦) -1,671文字-

 

二つの意味を持つメルボルン・ビクトリー戦での勝利だった。

4-2-3-1_兵藤藤本ドゥトラ まずはACLでのグループリーグ突破に望みをつないだという見方ができる。前半戦3試合を終えて、マリノスはわずかに勝ち点1しか挙げられていなかった。したがって、ようやくもぎ取った大会初勝利である。依然として苦しい状況には変わりないのだが、残り2試合を2連勝すれば自力でグループを突破できる。楽観的すぎる皮算用であることは百も承知の上だが、置かれている現状について樋口靖洋監督は「次のゲームも勝負をかけて戦える状況にできた」と前向きに語る。消化試合では絶対に味わえない緊張感が今後に向けた経験値となるのだろう。大会全体の反省は終わってからしよう。とにかく15日の全北現代戦を楽しみに待ちたい。

そしてもう一つ。言わずもがな、この勝利によって公式戦での連敗を『3』でストップしたことになる。前回のメルボルン戦、リーグ戦のヴァンフォーレ甲府戦、鹿島アントラーズ戦と3連敗中だった。大会が違い、試合に臨むメンバーも異なる。ただ、事実としてチームは3連敗していた。負ければ特に選手は下を向き、勝てば内容に関係なく上を向くものである。理想は上を向きながら反省と修正を繰り返すこと。ネガティブマインドに支配されないためにも、まずは勝利が必要だった。

 

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試合そのものの内容は決して褒められる出来ではなかった。不本意な形でPKを与え、そこから失点したことを悔やんでも仕方がない。それ以上に攻撃で良い形を作れなかったことのほうに不満が残る。前半のうちに逆転したものの、ゴールはいずれも相手の単純なミスである。同点ゴールは小椋祥平らしい縦への意識が結実したが、あろうことか相手DFはボールから目を離した状態で自陣ゴール方向に走っていた。逆転ゴールも奈良輪雄太の平凡なクロスを相手GKがファンブルしたことがきっかけである。ゴールにケチをつけるつもりはないが、マリノスのスタイルにおける狙いとする形ではなかった。兵藤慎剛がダメ押しの3点目を奪ってハッピーエンドかと思いきや、ロスタイムに失点する。どうにもゲーム運びが拙く、後味の悪さばかりが残る。

気になるのは、そうした試合を続けていく中で中村俊輔のテンションが下がり気味なことである。メルボルン戦の前半もチーム全体、そして自分自身が思うようにプレーできないことに対して苛立ちを見せていた。らしくない強引なキープを見せ、危険な場所でのボールロストもあった。試合後の言葉もどこか精彩を欠く。

「ACLがあって連戦なので、なかなかベストな状態で戦えない。それなのに監督も含めてベストを求めすぎ。いまは(齋藤)学もいないし、一人で推進力を出せる選手もいない」

たしかに事実であろう。だが、いまの中村がリーグMVPに輝いた昨季のキレにないことは明らか。チーム全体のバイオリズムが下がり気味な状況で、中村も少なからず変化を求められ、自身の意識との齟齬に苦しんでいるように見える。良くも悪くも自由にプレーする彼にどこまで制限を加えるのか。鹿島戦では前線に残らせ、メルボルン戦ではもともとの自由なポジショニングに戻った。

指揮官はどの試合でもマリノスらしさを求め、それを発揮できるか否かが勝敗を決めると信じている。真面目で誠実で実直な樋口監督らしい考え方だ。それゆえに、実際にプレーする選手との温度差が見え隠れする。それは勝っていれば決して見えない溝なのだが、負けた途端に急浮上してくる厄介な類である。おそらく、いまは勝つことでしかチーム状態を保てない。

格下のメルボルンに辛勝しても、チームの頭上は曇り空のままだ。

 

 

 

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