「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

勝ちながら反省するのは最高の過ごし方だが、現実から目を逸らすわけにもいかない [2nd8節鳥栖戦レビュー] 藤井雅彦 -1,464文字-

谷口博之にヘディングシュートを決められた瞬間は落胆せざるをえなかった。過去に何度も見てきたように、マリノスを巣立っていった(選手によって事情はさまざまだが)選手に“恩返し弾”を浴びせられる光景である。マリノスから移籍していくのだからいかなる理由だとしても出番を得られなかった場合が多く、その選手が今回の谷口のように持ち味を存分に発揮する。トリコロール以外のユニフォームに袖を通して。なんとも言えない気持ちになるのはマリノスに関係する者すべての総意であろう。

4-3-2-1_2015 しかしこの日は、そこからの反発力が見どころ十分だった。サガン鳥栖はフィジカルを前面に押し出し、プレー強度も高いチームであった。ただ序盤からセットプレーを含めたクロス対応だけは普段の堅さがなかったように見えた。中村俊輔を起点とするセットプレーはもちろん高精度だが、それ以上に相手のアクションが緩い。同じように両サイドからのクロスでもチャンスになりかけるシーンが多く見られた。

とはいえ攻撃の核として前2試合で地位を確立したラフィーニャ抜きでの戦いなのだから戦力ダウンは否めない。この強烈な個が離脱してできた穴をいかにして埋めるか。チームを救ったのは2連勝の最中、ベンチスタートだった伊藤翔と中村である。1トップの伊藤は同点ゴールというこれ以上ない結果で存在感を示し、喜田拓也の離脱と三門雄大のスライドによってトップ下に入った中村はキレのあるプレーを披露。さらにファビオの決勝ゴールをアシストした。総力で勝ち取った3連勝と表現していいだろう。

選手が変われば、チームのスタイルも異なる。特に攻撃のけん引役となる1トップとトップ下の選手がチェンジしたのである。ラフィーニャと伊藤は優劣とは関係なくプレーヤーとしてのタイプが異なり、三門と中村はもっと違う。ラフィーニャならば個で勝負できるが伊藤はそれが難しい一方で、プレーの連続性で勝負できる。中村は三門ほど攻守のスイッチ役になれないが、三門にはないアイディアとキック精度がある。何より彼が望んでいたポジションでのプレーだ。

 

 

下バナー

 

鳥栖4-2-3-1 チームとしての3連勝は賛辞に値する。ただ、名古屋グランパスとヴァンフォーレ甲府から挙げた2連勝と昨日の鳥栖戦は内容が少なからず異なる。繰り返すが、選手が違えば体現されるサッカーの質は異なる。では次の試合(浦和レッズ戦)にどうするのか。左太もも前を痛めたラフィーニャの復帰は難しいかもしれない。しかし鳥栖戦前日に脳震とうで倒れた喜田は、順調にいけば29日の浦和戦で復帰するだろう。そのとき三門はトップ下に戻る可能性が高く、果たして中村に居場所はあるのか。

点ではなく線でチームを追いかけるとき、この3連勝で問題と課題がすべて解消されたわけではない。勝ちながら反省するのは最高の過ごし方だが、現実から目を逸らすわけにもいかない。“三歩進んで二歩下がる”を繰り返すのではなかなか前進しないのだから、そろそろチームとしての方向性を定めたい。結論が背番号10のベンチスタートだとしても、それを受け入れて先を進む必要がある。

 

 

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ