PK戦は5人全員がしっかり成功し、ポープのセーブにつなげる。 陰の殊勲者と、その奥にいた心強い後押しと [ACL準決勝 蔚山戦レビュー]
今度はチームが上島を救った
「相当エモーショナルな試合だった」
興奮気味に話したのは延長戦に入ってから途中出場した天野純だ。古巣との一戦で普段以上に気合いが入るシチュエーションなのは想像に難くない。チームにとっても新たな歴史のページを開いている真っ最中で、しかも前半に起きた“ある事件”が状況を大きく暗転させていた。
上島拓巳の一発退場である。リードしている展開とはいえ、残り45分以上を数的不利で戦うことに(実際には延長戦も含めて75分以上だった)。スライディングで体を投げ出した際、残っていた腕にボールが触れる。決定機阻止なのは間違いなく、無情にもレッドカードが提示された。
植中朝日、アンデルソン・ロペス、そして再び植中が決めて早々に3-0。マリノスサポーターなら狂喜乱舞しても不思議ではない、ほとんどお祭りムードになっていた状況が、セットプレーからの失点と前述の退場&PKによる失点でまったく違う展開に。サッカーの怖さが凝縮されたセミファイナルの第2戦だった。
上島のワンプレーに話を戻すと、責任感の強さが結果として裏目に出てしまった感は強い。若い榊原彗悟のボールロストから相手のカウンターを食らい、ディフェンスラインを突破されかけたところでカバーリングに走った。
試合翌日の取材対応で冷静にそのシーンを振り返る。
「これは抜け出されると思って対応にいったし、判断やカバーリングは自分の中でしっかりとできていた。ただ相手もスピードがある選手で、リアルな感覚で言うとすごくピンチというか、シュートを思い切り打ってきそうな感じ、決められてもおかしくない感じだった。DFとしては体を投げ出してでも守りたい、自分がそこのピンチを防ぎたいという気持ちでスライディングにいった」
高速戦の中で求められる瞬時の判断である。1失点目となるCKを与えたのが自身のクリアミスという負い目もあったのかもしれない。「映像を見返すと、角度は自分が思っていたよりもなかったので、GKとコミュニケーションを取ってやる選択肢もあった」という冷静さを求めるのは酷かもしれない。
反省や課題を受け止めながら、次に出てきた言葉は仲間への感謝の気持ちだった。
「チームメイトに感謝している。退場してチームを難しい状況にしてしまって、負けてもおかしくない試合だった。その中でもチームメイトを信じていた。僕は次のセレッソ戦、もしくはみんながつないでくれた決勝の2戦目というところで、自分の力を出せればいいかなと思う。PKの時も階段のところから見ていたけど、すごく嬉しい気持ちと、逆に喜び合っているところに自分がいられない悔しさがあって、複雑というか無力さを感じていた。(宮市)亮くんが、「拓巳はどこだ?」と探してくれて、呼んでくれた。ひとりの人間として素晴らしい人だなと感じたし、いろいろな選手が迎え入れてくれた。あらためてマリノスは素晴らしいチームだなと感じたし、それをこれから返していきたい」
今季、上島はほとんどフル稼働でチームを救ってきた。すると今度はチームが彼を救った。退場を美化してはいけないが、決勝戦のチケットを手に入れるための最高のスパイスになったこともまた事実である。
PK戦勝利へ導いた陰の殊勲者
実質的に決着をもたらしたのはPK戦だった。
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