「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「監督のために」勝利を目指すべき [J32節神戸戦プレビュー] 藤井雅彦 -1,584文字-

 

スタメン予想に大黒柱・中村俊輔の名前がいない。今月3日の第31節・浦和レッズ戦で左ひざを打撲し、前半のうちに途中交代した。その後は別メニュー調整を続け、16日の湘南ベルマーレとの練習試合で実戦復帰し、45分間プレーした。本人は明日のヴィッセル神戸戦に向けて「いい感じに仕上がってきている」と笑顔を見せていた。

4-3-2-1_ファビオボランチ その矢先の出来事だ。今週の水曜日、慢性的な痛みを抱えていた左足首が悲鳴を上げる。突如として練習グラウンドから姿を消すと、室内での治療とリハビリに努めていた。木曜日からは痛み止めの注射をともなって練習に復帰し、紅白戦には控え組ながら参加できた。とはいえ患部が完治したわけではない。「時間限定にせざるをえないかな」(樋口靖洋監督)。中村は神戸戦でベンチスタート濃厚となり、トップ下の代役は藤本淳吾が務めることになりそうだ。

依然としてけが人に悩まされ続けているマリノスだが、残り3試合のカギを握るのはモチベーションである。はっきり言ってコンディションは二の次だ。戦える選手が11人にピッチに立てば、それでいい。プレーできる程度のけがを理由に出場回避するのなら、その選手は来年に視線を向けていると捉えられても仕方がない。中村は大黒柱として、主将として、歯を食いしばってピッチに立つのだ。

今季限りでの退任が発表されても、樋口監督の変わらず勝利を追い求めている。練習中の振る舞いもメディアとの接し方も、指揮官は良い意味で変わらない。「プロとして」と言えば簡単だが、これが思いのほか難しい。過去に、自身の解任が発表された途端にクラブへの愚痴をこぼす監督は大勢いた。だが、樋口監督はそういった文句をまったく言わず、残り3試合での勝利に注力している。

 

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神戸4-2-3-1そう考えると、公式戦を残しているタイミングでの退任発表も合点がいく。つまりフロントは樋口監督を信頼しているのだ。リーグ戦を残しているにもかかわらず退任を発表すれば、監督の求心力は当然薄れる。選手にしてみれば、監督に従う必要がなくなるからだ。だから個人的には、今回の一件については退任の是非とは別に、発表のタイミングについて腑に落ちない部分もある。

唯一の救いは、そしてクラブの狙い通りだったのは、前述したとおり樋口監督が変わらなかったこと。究極的には、すべてを投げ出して無茶苦茶な采配を振るっても不思議ではないのだ。例えば、ベテランを起用せずにあえて若手偏重に切り替えても誰も文句は言えない。でも、樋口監督はそれをしない。あくまで現時点でのベストメンバーで臨み、純粋に勝利を目指す。

樋口監督は最後まで樋口監督のままだろう。もちろん選手だって勝ちたいはず。それなら、最後くらい「監督のために」勝利を目指すべきだ。樋口マリノスの冒険は、まだ終わっていないのだから。

 

【この試合のキーマン】
FW 16 伊藤 翔

 今シーズン中にラフィーニャが復帰する可能性が消え、残り3試合も1トップの指定席は彼のものになった。ここまでの5ゴールという結果は周囲を満足させるには程遠く、最も責任を感じるのは自身だろう。
樋口監督は基本的に伊藤を軸に据えて戦ってきた。その理由は「ゴール以外の部分でも献身的にプレーできる」という特徴に期待していたから。つまり突出した得点能力がなくても、チームの駒としてプレーできる点を評価してきたというわけだ。
残り3試合で5得点し、二桁得点でフィニッシュするのは無理難題かもしれない。でも、彼は前線で体を投げ出し、ルーズボールをマイボールに変え、ゴール前ではダミーの役割を厭わない。周りに5点以上取らせる可能性を持っている。

 

 

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