「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ホワイトボードだけでこの日の戦いぶりを変えることもできた [J30節セレッソ戦レビュー] 藤井雅彦 -1,941文字-

 

はっきり言って、前半はまったく見るに値しない試合だった。正直、あくびが止まらない内容で、お金を払って観戦していたらブーイングの一つでも飛ばしたくなるほど、つまらない試合と言わざるをえない。

C大阪4-4-2 そうなった理由の一つに、セレッソ大阪の守備的な戦い方がある。樋口靖洋監督は試合後の記者会見で「正直、C大阪がこれほど守備を意識して、勝ち点1を意識して来るとは思っていなかった。もう少し攻めに出てくるかなというところはあった」と語っている。残留争いの渦中にいるセレッソは、全体的に消極的な戦いぶりだった。それは後半途中にカカウをベンチに下げたことからも明らかであろう。

だが、相手だけに原因を求めてはいけない。この日はマリノスの先発メンバーを見た時点で、こうなる予感は漂っていた。真面目な指揮官は、いつも選手をポジション通りに並べて先発メンバーを提出する。GKのあとはディフェンスラインの4人を右から順番に、次はダブルボランチ、そして2列目という感じに。それにならうとこの日は、ボランチに佐藤優平が入るのは先発発表の時点でわかった。

 

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果たして、この選択はどうだったのか。たしかにマリノスはボランチを本職とする選手が一人もおらず、兵藤慎剛がファーストボランチを務めなければいけないほど苦しい状況にある。中町公祐、小椋祥平、喜田拓也に加えて、富澤清太郎が前節の大宮アルディージャ戦で負傷離脱し、三門雄大も腰痛が再発した。そういった事情を踏まえて、ボランチ出身の佐藤を中盤の底で起用した。

4-3-2-1_佐藤ボランチ 本職の選手がいないのだから、もともとボランチの選手をそのポジションで起用するのはセオリー通りのような気もする。しかし、戦前に樋口監督自身が「優平は2列目で良さを出せている」と話していたのだ。そのとおりだと思う筆者は胸を撫で下ろしていた。しかしながら蓋を開けてみて、まったく逆に采配になったのは指揮官の真面目さたる所以だろう。

兵藤と佐藤をダブルボランチ起用すれば、彼らは守備に意識が傾く。ともに守ることを本業とはしないのだから、余計に守りを意識してしまう。佐藤は「今日はボランチの位置を意識していた。カカウとかちょっと怖かった。変なとられ方をしてボランチがいないと危ないと思ったし、(中澤)佑二さんも守備から入れと言っていた」と明かす。2年目の佐藤はチーム事情に振り回されて、最近見せていた元気なランニングを封印せざるをえなくなった。

試合が、いやマリノスが動き始めたのは後半に入ってから。そのきっかけはやはり佐藤のポジショニングで「ヒョウくん(兵藤)と話して、前へ行く意識を強めた」(佐藤)ことがきっかけだった。これは指揮官から明確な指示があったわけではなく、選手個々の判断でしかない。前半の戦いは明らかに失策なのだから、ベンチワークでもっと早く手を打つべきだった。

選択肢は大きく分けて二つ。プレビュー号でも支持したように、藤本淳吾をボランチで起用すべきではなかったか。守備に難を抱えるのは佐藤も藤本も同様なのだから、攻撃面で佐藤の良さを継続することでリズムを貫く戦略もあったはず。もう一つはシステム変更で、佐藤が「最後は[4-1-4-1]みたいな形になった」と話したように、それがこの日の正解だったのかもしれない。兵藤と佐藤のダブルボランチで臨めば、彼らが守備に追われるのは目に見えている。

ならば、思い切って兵藤をワンボランチに配し、佐藤にはいままでどおりの役割を任せても面白かった。リスキーな選択肢ではあるが、もはやすべてがリスクなのだ。仮にシステムを変更しても、中村や佐藤が状況を見てボランチの位置に下がってくることはできる。特に主将・中村はチーム状況を見てプレーして当然だろう。だから樋口監督は大好きなホワイトボードだけでこの日の戦いぶりを変えることも十分にできた。

指揮官にはそういったアイディアと思い切りが絶対的に欠けている。セレッソ戦が低調なスコアレスドローに終わったのは、けが人続出が最たる要因だが、それを打開する方策に欠けていたこともまた事実である。

 

 

 

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