「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

スタイルの確立は、勝利するための方法論に過ぎない [J27節鳥栖戦レビュー] 藤井雅彦 -1,551文字-

実質シュートゼロ本に終わった鹿島アントラーズ戦。1-0で勝利したもののゴールシーンのPK以外に得点の香りはしなかったサンフレッチェ広島戦。互いのゴールチャンスなく、ほぼ必然のスコアレスドローに終わったヴァンフォーレ甲府戦。マリノスは苦しい内容のゲームが続いていた。

そして今節のサガン鳥栖戦も、決定機と断言できる場面は一度も訪れなかった。唯一、終盤に投入された4-3-2-1_負傷者続出矢島卓郎がフィジカルを生かした独力でチャンスを生み出したが、それも放ったシュートは相手GKの正面で弾かれた。相手守備陣を崩すような攻撃は皆無に等しかった。

たしかに鳥栖は全体的に集中力が高く、CBに菊地直哉とキム・ミンヒョクが戻ってきた守備陣の強度も高かった。前半のうちに豊田陽平のゴールで1点をリードしたこともその後の展開を有利にし、精神面でも優位に立っていたはず。とはいえ、そういったいくつかの状況を差し引いても、マリノスはあまりにもチャンスを作れなかった。

苦しい陣容だったのは誰が見ても明らかだ。樋口靖洋監督がそれを口にしたら言い訳になるので愚痴をこぼすなどありえないが、スタメンの約半数を欠いたら苦しいに決まっている。大黒柱の中村俊輔を筆頭に、ラフィーニャや齋藤学といった個で局面を打開する選手を欠き、ボール奪取能力に長けて同時に前への推進力を与える中町公祐と小椋祥平のダブルボランチも不在。さらには今シーズン安定したパフォーマンスを見せている栗原勇蔵までいない。苦しい試合になるのは、試合前からわかっていた。

 

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それでも樋口監督は「メンバーがいないからこそ、誰が出てもスタイルを発揮できるところを示さなければいけない」と主張していた。結果を求めると同時に『スタイルを確立する』と宣言して監督に就任したのだから当然かもしれないが、やはり最優先は結果であり、勝つための手法を考えるのが監督の仕事である。

鳥栖4-2-3-1 前記したように実質シュートゼロに終わった鹿島戦を終え、広島戦と甲府戦ではアグレッシブに戦えるメンバーを先発に揃えた。それはこの鳥栖戦も同じであった。体調不良から復帰して全体練習に合流していた中村をあえてメンバーから外す決断を下したのは、ほかならぬ樋口監督だ。そこには明確な意図が存在した。復帰したとはいえ、万全ではない中村はまだ戦えない、という判断が間違っていたとも思わない。

しかし、実際はアグレッシブに戦うどころか、まったく見どころのない試合になっている。これは鳥栖戦だけでなく甲府戦も、そして広島戦もほとんど同じだった。鹿島戦も含めて、マリノスは4試合連続であまりにも低調な試合を演じている。チャンスの数だけでサッカーの質を評価するつもりなど毛頭ない。だが、相手に脅威を与えられていないのは紛れもない事実。これでは勝ち点獲得など望むべくもない。

スタイルの確立は、勝利するための方法論に過ぎない。勝てないようなスタイルなら、意味がない。これはけが人が帰ってきてからも当てはまることだが、どうすれば勝利への最短距離を進めるのか。指揮官が真の目的を見失っては、残り7試合はただの消化試合になってしまう。

 

 

 

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