汗をかけば必ず勝ち点3が手に入るわけではない [J26節甲府戦レビュー] 藤井雅彦 -1,531文字-
試合前も、そして試合後も、兵藤慎剛は同じような言葉を用いて、試合について語った。
「シュンさん(中村)がいない試合で負けると、シュンさん不在が響いた、と思われてしまう。それは悔しいし、そういう試合にはしたくない」
中村俊輔の不在は、マリノスにとって間違いなく大きな出来事だ。誰よりもボールにたくさん触れ、チーム1位のボールタッチ数やパス本数を誇る選手である。いなければ、チームとしての方向性が大きく変わる。端的に言えば、攻撃時に遅攻が減り、ゲームメイクできる選手はいなくなる。
事実、ヴァンフォーレ甲府戦では比較的早い段階で前線にボールが入っていった。最終ラインの選手も、ダブルボランチも、前線へとボールを突っ込む。グラウンダーのショートパスあり、ロングボールである。後ろでゆっくりゲームを作るよりも、積極的に前へ運ぶことで何かを起こそうとする。是非ではなく、そういったサッカーになるのはある意味で必然だった。
樋口靖洋監督も、そのサッカーをするためのメンバーを選んだ。2列目で起用されたのは、最近のパフォーマンスが芳しくない齋藤学でも、毎試合のように不調の藤本淳吾でもなく、ランニングで活性化できる佐藤優平だった。その佐藤は兵藤慎剛とポジションを自在に変えながら、バイタルエリア付近を動き回ってレシーバー役を務めた。中村のようにポジションを下げることなく、前で攻撃に絡もうという狙いは見えた。
だがボールを持っても。崩しきれなかった。甲府の守備は堅く、個の能力に秀でるわけではないマリノスは、組織的な崩しを試みたが力及ばなかった。依然としてラフィーニャを負傷で欠く純日本人の布陣では、やはり最後のパワーが足りない。圧倒的にボールポゼッションしても、結局はシュートにたどり着かない。前後半でシュート6本では、どうしても苦しい。
2トップへのシステム変更こそ不発に終わったが、この試合における狙いは概ね間違っていなかったと思う。そして、選手たちのパフォーマンスも悪いものではなかった。ほとんど初めての組み合わせながら、どの選手も精一杯を尽くしていた。違いを生み出せる選手がいない中で、ほぼベストを尽くした。
それゆえに限界を感じたのが本音であろう。『頭打ち』の印象は拭いきれず、延長戦があってもゴールの匂いが漂ったかは怪しい。この試合では守備陣の集中力が高かったためカウンターを食らう場面はほとんどなかったが、時間があればあるほど焦れたのはマリノスかもしれない。それほど甲府のサッカーはベクトルがしっかりしており、チームの全員が同じ方向を見ていた。
このメンバーでの限界だった。勝つためには汗をかかなければいけないが、汗をかけば必ず勝ち点3が手に入るわけではない。そして、マリノスは甲府のような地方クラブではなく、大都市に居を構えるビッグクラブだ。違いを出せる選手が、しっかり汗をかき、相手を上回ってほしいというのは、筆者の勝手なエゴだろうか。
この日のマリノスでは、J1の上位に食い込むことは難しい。