「観客が2万人から3万人入っているスタジアムではGKの声がなかなか届かない。声を出すことの重要性を再認識しました」[パク・イルギュ インタビュー(前編)]
福森晃斗のPKを止める。直後、松原健がゴールネットを揺らすと、選手たちは勝利の立役者となった背番号1の下へ一斉に駆け寄った。ルヴァンカップ準々決勝で北海道コンサドーレ札幌を破り、マリノスは準決勝に進出した。
ヨコハマ・エクスプレスでは戦列復帰して間もない8月中旬、パク・イルギュに独占インタビューを行っていた。中2~3日の過密日程のため配信が遅くなってしまったが、歯切れのいい言葉の数々に活躍の予兆はあった。
苦しい出来事の数々がパクを強くした。

©Y.F.M
パク・イルギュは6月15日の出来事を忘れないだろう。
新型コロナウイルス感染拡大の影響による自粛期間が明け、全体練習を再開して半月ほど経った日の練習だった。シュートトレーニングの際に右手を負傷。尋常ではない痛みに襲われ、軽傷ではないことを悟った。
「自分自身で『やってしまった』と直感的に分かりました。とにかく大事に至らなければいいなと願うだけでした」
練習を切り上げ、すぐに病院へ向かって検査を行った。そして夕方には手術でメスを入れた。落ち込む時間もないほど慌ただしく時間は過ぎ、あっという間に患部を固定するためのギブスが装着された。
あの日を振り返り、苦い表情を浮かべた。
「とにかく手術が嫌で。怖いし、痛いし…。以前にも手術をしたことがあったけど、どうしても憂鬱でした。でも今回は考える余裕がないくらいスピーディーに手術することになって、それが反対に良かったのかもしれません。頭が真っ白になったのは手術を終えて診断結果を聞いてからです。落ち込むというか、何も考えられませんでした。Jリーグが再開する2~3週前の出来事で、精神的に難しいタイミングでした」
元来、少々の痛みはこらえてプレーを続ける我慢強いタイプだ。足首を捻っても「捻挫はケガじゃない」と自らを奮い立たせ、プレーできる状態ならば続行する。筋肉系の故障も「走れているうちは大丈夫」と気丈に振る舞う。苦境にも下を向かない強いメンタルは、パクの大きな武器だ。
だから気落ちしたのは手術直後の一瞬だけ。努力次第で復帰時期を早められる可能性があると聞いてからは、視線は前だけを向いていた。
「全治2ヵ月という診断結果でしたけど、すべてが順調に進めば6週くらいで復帰できるかもしれないとも言われました。それを聞いて、だいぶ気がラクになりました。それに負傷当初はまだリーグ戦が再開していなかったので、仲間がピッチで戦う姿を見て焦ることもありませんでした。もし公式戦の最中だったら、もどかしい気持ちになってしまったかもしれません」
負傷当初は右手が使えなかった。グローブを装着できないのだから、GKにとっては致命傷だ。
だがポジティブに考えた。「オレは足を使える」と。
患部の回復を待ちながら、ボールコントロールやフィードの練習に取り組んだ。普段はあまりボリュームを割けないメニューだが、この時ばかりは時間が許してくれた。手が使えない以上、足を使い、頭を回転させるしかない。
ポゼッション時のポジショニングを頭の中でイメージし、正確かつテンポ良く味方へボールをつなぐ。イメージしていたプレーを何度も反復していく。
気がつくと、季節は夏になっていた。
7月に入り、リーグ戦が再開した。ピッチの外から試合を見守るしかできない悔しさを胸の内に秘めながら、冷静にチームを分析していた。
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