「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「しびれるでしょうね。その雰囲気を味わってほしい」(樋口) [プレシーズンマッチ・マンチェスターU戦プレビュー]+樋口監督インタビュー (藤井雅彦) -2,855文字-

樋口靖洋監督は元来、真面目な性分である。世界有数の規模を誇るビッグクラブとの対戦を目前に控えて「こんな機会は滅多にない。クラブとして、チームとして、個人として生かさないといけない。まず、この2週間の中断期間にプレシーズンマッチが入ることで試合勘を維持できる」とコメントした。これはクラブの意向ではなく、監督自身の真面目な考え方が凝縮された言葉である。わずか2週間のインターバルで経験豊富なレギュラー陣の試合勘が低下するとは考えにくい。しかし、仮にこのプレシーズンマッチが組まれていなければ、おそらく主力組に対しても練習試合を課していただろう。樋口監督とはそういう人物だ。

もちろん世界に『横浜F・マリノス』の名前を轟かせる良い機会ではある。「マリノスを世界に発信できる貴重な機会。タフに、フェアーに、躍動感あるサッカーを見せたい」(樋口監督)。現状、地上波で生中継されるサッカーのコンテンツは日本代表戦とナビスコカップ決勝くらいか。世界以前に日本全土にアピールする絶好の機会である。経営問題が取り沙汰される昨今だからこそ、せめて現場は健全な状態をアピールしなければならない。

4-2-3-1_佐藤左 ただし、この試合で勝敗を争うのはナンセンスかもしれない。まず、相手がどの程度本気か定かではない。例えば日本代表の背番号10番・香川真司はおそらくこのゲームに出場する“契約”になっているが、彼自身はコンフェデレーションズカップ終了と同時にオフ入りし、この試合には完全なオフ明けで臨む。本来ならば試合に出場できるコンディションではない。だから局面で無理をするとは思えない。いくら技術に優れていても、ウォーミングアップ程度にしか考えていないのであれば怖くない。それは他の外国籍選手も同様である。

選手のコンディションを見極める必要があるのはマリノス側も同じこと。左ひざを痛めている中澤佑二はウォーミングアップこそ行うものの、その後は個別でフィジカル中心のメニューに専念している状態だ。「状態を見ながら。決して無理をさせるゲームではない。リーグ戦に影響が出ないように考えていく」と樋口監督。これがリーグ戦であれば本人は無理を押してでも出場するだろうが、今回はあくまでプレシーズンマッチである。ここで患部を悪化させては本末転倒。前日の紅白戦にも出場しておらず、どうやら本番も回避する方向だ。

中澤を欠くCBはもう一人のレギュラー栗原勇蔵も日本代表活動のため不在。そのため紅白戦ではファビオと田代真一が最終ライン中央でコンビを組んだ。富澤清太郎を一列下げる選択肢もあったが、ここまでの流れを重視してボランチで起用される見込みだ。また、こちらも日本代表に招集されて不在の齋藤学のポジションには佐藤優平が入るだろう。齋藤とはまったく違うタイプのプレーヤーではあるが、動きの連続性や走力といった点でアピールできるか。そのほかのポジションに関してはレギュラー陣が引き続き出場する。

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チケットはすでに完売している。試合当日、日産スタジアムには7万人近いファンが足を運ぶだろう。そんな環境でボールを蹴ったことがある選手は数えるほど。中町はこの試合に向けて「オレのキャリアハイだから」と興奮気味に話す。その空気を味わうため、マリノスはプレー可能な選手全員がベンチ入りする。「しびれるでしょうね。その雰囲気を味わってほしい。スタンドにいて7万人の一人になるのではなくピッチレベルで感じることが大事」(樋口監督)。

真面目な指揮官にあえて「監督として、こういったゲームで結果にどの程度こだわるのか?」と訊いた。答えは「トライした結果として、結果を求めていきたい。それ以上に個人に長めの時間を与えて、きっかけにしてほしい。そういうところでは結果より重要なものもある」。この場を貴重な機会と捉え、特に普段のリーグ戦でなかなか出場できない選手の高揚感あるパフォーマンスに期待したい。

 

【試合に向けて】
樋口 靖洋 監督

――まずはリーグ戦の前半戦を振り返ってください。

「本当は最後の4連戦で勝ち点10は取りたかった。でも最後に連勝で締めくくれたのは良かったと思う。あの2試合に関しては心配していなかった。それよりも再開初戦の大分戦、それとセレッソ戦が一番の鬼門だと思っていて、そのとおりになってしまった」

――首位と勝ち点2差の3位という順位については?

「順位が3位ということよりも、勝ち点34という数字で優勝争いできる位置にいられているのが良いこと。後半戦も全体の勝ち点の3分の2、つまり勝ち点34を取れば、例年であれば終わったときに1位か2位か3位にいると思う。今年も混戦になって優勝ラインは66~70くらいだと予想している」

――内容面に関しては?

「連戦や暑さを除いて、やるべきことをやれた。特に最後の2試合はチームのスタイルを出して勝てた。経験値でチームをコントロールしているのもあるけど、まず単純に相手よりも走れている。決して相手に見劣りしない。なるべくベテランという言葉を使わないほうがいい(笑)。ここまで大きなけが人もいないし、大きくコンディションを崩した選手もほとんどいない。素晴らしい半分を過ごせた。若手はまだまだ伸びる余地があるし、変わりつつある。彼らの成長度合いによっては十分に戦力になる」

――中断期間中に組まれているマンチェスター・ユナイテッドとのプレシーズンマッチの位置付けは?

「こんな機会は滅多にない。クラブとして、チームとして、個人として生かさないといけない。まず、この2週間の中断期間にプレシーズンマッチが入ることで試合勘を維持できる。クラブとしては、マリノスを世界に発信できる貴重な機会。タフに、フェアーに、躍動感あるサッカーを見せたい。チームとしては、自分たちのスタイルがどこまで通用するのか。Jリーグ基準では毎試合のように確かめられるけど、それが世界基準にどこまで通用するのか。これがACLであったり、クラブワールドカップにもつながっていく。個人としてはトライしてほしい。何ができて、何ができないのか。実体験として持てるのは大事なこと」

――交代枠がないとか?

「レギュレーションとして、ベンチ入りの人数に制限がなくて、交代の枠も決まっていない。だからウチは全員がベンチ入りする予定でいる。(7万人のスタジアムは)しびれるでしょうね。その雰囲気を味わってほしい。スタンドにいて7万人の一人になるのではなくピッチレベルで感じることが大事。あらためてサッカーをできる喜びを感じる機会になると思う」

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