「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

首位スタートから上昇気流へ 【J第2節清水戦 試合直前・藤井雅彦プレビュー】

 

順位表の最上位に『横浜F・マリノス』。

「まだ順位なんて考える時期じゃないでしょ!」と笑い飛ばしたのは兵藤慎剛で、樋口靖洋監督も「ウチが1位なんですか? 知らなかった」とまったく意に介していなかった。長いシーズンのたった1試合が終わっただけで順位について語るのはナンセンスなのだろうか?

では、いつになったら選手や監督が順位を意識し、メディアが順位について語ることが許されるのか。中断期間明け? それともシーズンの半分を折り返してから? そんな基準など一切ないはずだ。もっと言えば、このまま1位をキープし続ければ新聞やテレビでは継続的に大きく扱われるだろう。それは1位チームの特権でもある。18チームで順位を競うリーグにおいて、何試合を消化した時点であろうと順位には大きな意味があるはず。いや、あるべきだ。

1位発進の原動力となったのが得失点差で大きなプラスを生んだ攻撃陣である。18チームで唯一の4得点スタートとなったマリノスだが、得点者の内訳が実に素晴らしかった。中村俊輔の直接FKに始まり、マルキーニョス、齋藤学、そしてトドメはマルキーニョスのPK。「いい選手が点を取ったと思っている」(樋口監督)。マルキーニョスに得点王争いを、中村や齋藤には二桁得点を期待している指揮官は喜んだ。野球選手でもシーズン最初のヒットが出るまでは落ち着かないというが、サッカーのゴールゲッターとて同じこと。最初のゲームでゴールしたのだから上昇気流に乗っていく可能性は十分だ。

一方、守備面で抱える課題は少なくない。如実に表れたのは湘南戦で喫した2失点目の場面である。まずはドゥトラのボールロストがいただけなかったが、両SBが高い位置を取り、その背後のスペースを突かれる場面はこれまでも散見されてきた。ゴール前で抜群の存在感を発揮する中澤佑二もサイドのスペースへつり出されると若干の脆さをのぞかせてしまう。さらに背後に控える栗原勇蔵もカバーリングを怠る場面がある。かといってドゥトラや小林祐三が高い位置を取らずに攻撃の組み立てに加わらないのも得策ではない。

解決するには全体のバランスを整備し、個々が意識を高めるほかにない。富澤清太郎と中町公祐が絶対的となっているダブルボランチも含めた問題で、リスクマネジメントを徹底しなければならない。清水エスパルスについて中村は「FWが攻め残りしてくる」と分析しており「ウイングの選手がSBの攻め上がりについてこない」とも話す。つまりマリノスが抱える課題が噴出する可能性は高い。マイボールを安易に失わないポゼッションを考えながら、リスクを念頭に置いてプレーすべきだろう。

清水戦における守備について追記するならば、得点を狙うために相手は後半途中から瀬沼優司を投入してシステムを変更してくる可能性が高い。おそらくは185cmのターゲット目掛けてハイボールを送り込んでくることだろう。実際、大宮アルディージャとの開幕戦ではその狙いが奏功し、2点のビハインドを追いついて引き分けに持ち込む一つの要因にもなった。このアフシン・ゴトビ監督の采配について「意識は当然する」と樋口監督。この言葉通り木曜日の紅白戦ではファビオを加えた5バックを試した。中澤、栗原、ファビオの3選手が自陣ゴール前に揃えば高さという点で優位性を保てるはず。実際の機能性はともかくとして準備段階としては好感が持てる。

指揮官の采配は、攻撃面でも大きなポイントとなる。それはベンチに齋藤学という“切り札”を持っていることからも明らかで、得点が必要な場面では藤田祥史を前線に送り込んだ2トップに変更する策もある。5バック同様、木曜日の紅白戦では攻撃的な布陣として試しているが、それよりも大きいのはやはり開幕戦での成功体験だ。齋藤は「あんなにうまくいくことはなかなかないと思う」と苦笑いしたものの、シーズン最初のゲームで采配がズバリ的中したのは大きい。

懸念を挙げるとすれば、それに味を占めた指揮官が交代をパターン化することである。思い返せば昨年の開幕戦では、攻撃的MFで途中出場した谷口博之が試合終了間際の土壇場で同点ゴールを決めた。するとそこからしばらくは谷口をスーパーサブとして起用し、本来のポジションであるボランチでの起用回数はめっきり減った。

今年も同じ現象が起きる可能性を否定できない。コンディションが整っていない齋藤のベンチスタートとそれによる端戸仁の継続先発は悪い判断ではない。得点がほしい場面では藤田を投入するのもアリだろう。中村をボランチに下げたことで攻撃的な布陣としてしまうのは錯覚に過ぎない。湘南戦では藤田投入でシステムを[4-4-2]へ移行したタイミングで中村をボランチに置いた。後方からの配給役を任せた格好だが、トップ下で輝く中村を相手ゴールから遠ざけるのが得策とは思えない。中村自身は「場合によってはボランチの位置に下がってゲームを組み立てたり…」と多岐に渡る役割を歓迎しているが、あくまでスタートポジションは前目という前提を忘れてはいけない。湘南戦では齋藤と藤田が流れを呼び込み、そこに相手の拙さも手伝って逆転勝利できた。中村をボランチ起用した効果が出たとは言い難いのだ。

もっとも樋口監督は「交代をパターン化するつもりはない」と言い切っている。開幕戦はあくまで開幕戦で終わらせ、第2節ではその状況に応じた的確な一手に期待したい。もちろん、ベンチに座る指揮官が頭を悩ませることなく、ベンチ入りする佐藤優平や喜田拓也を余裕をもって投入できる展開が理想なのは言うまでもない。

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