「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

本当の楽しみはここから始まる。 [J17節浦和戦レビュー] (藤井雅彦) -2,376文字-

初めてサッカーをスタジアム観戦したお客さんは最高に楽しめるゲームだったのではないか。まず単純にゴールがたくさん決まり、どちらに転ぶか分からないスリリングなシーソーゲームとなった。集客力ある両チームの対戦にもかかわらず、平日開催であいにくの悪天候だったためスタジアムにわずか23,725人しか足を運べなかったことが残念でならない。これは他会場も例外ではなく、どこのスタジアムも悲惨な数字が並んでいる。2ステージ制や開幕時期の問題などよりもよっぽど深刻な問題が目の前にあることをJリーグや日本サッカー協会は理解すべきだ。

開幕4-2-3-1藤田1top埼玉スタジアムを筆頭にどの会場でも比較的ゴールが数多く生まれる展開になった理由、あるいは原因として夏場の連戦を挙げないわけにはいかない。目の前に試合に限ると、マリノスと浦和レッズの選手たちが歯を食いしばって走り、最後まで勝利への執念を見せていた点に頭が下がるものの、クオリティーの面では決してトップクラスではなかった。蒸し暑さこそなかったが、疲労と悪天候が重なり、プレー精度は全体的に高くなかった。その結果、集中力が散漫な場面も数多く見られた。

落ち度の多くは単純なミスとして姿を現す。例えば齋藤学のゴールは小林祐三のふんわりクロスを見事なトラップから痛快に決めたものだが、ボールが空中にある時点で平川忠亮に体を当てて飛べない状態に陥れた。齋藤のお手柄なのだが、守備側からすれば単純な対応ミスともとれる。齋藤がトラップした時点で平川は完全にボールとマークすべき齋藤を見失っていた。あの局面できっちり同点ゴールを決めた齋藤は称賛されてしかるべきとはいえ、それは直前に日本代表に初選出されたという普段とは違う見方がある。プレーそのものだけであれば、相手のミスを逃さなかったという程度だ。

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 また、サッカーの世界でミスが最も分かりやすく出るのがセットプレーである。この試合は両チーム合わせて5つのゴールが生まれたが、そのうち3つがセットプレー絡みの得点だった。マリノスの1失点目は自分たちの左CKからカウンターを食らったもの。浦和の高速カウンターは鋭く、精度も高かった。しかし守備陣の枚数的は足りていたわけで、得点者の那須大亮のランニングで誰も追いつけなかったのは問題だろう。セットプレーの起点となる中村俊輔は「自分たちがセットプレーが強いと思っているとそこからカウンターを食らう。だからセットプレーは攻守とも大事ということ」とあらためて警鐘を鳴らした。

浦和の2点3-4-2-1浦和目とマリノスの決勝点は完全にセットプレーから生まれた。柏木陽介が蹴った左CKをニアサイドで合わせたのは阿部勇樹で、マークを担当していた小林祐三は粘着性の強い守備を得意とするが、この場面では珍しく振り切られてしまった。最終的には槙野智章に詰められたわけだが、ニアサイドでヘディングシュートを許した時点でほぼ勝負アリだ。このゴールと前述したカウンターによる失点はマルキーニョスの先制点のあとに許している。淡白な失点は相変わらずで、この問題を修正しないかぎりは現在順位に踏みとどまるのは難しいかもしれない。

浦和戦に限っては齋藤のゴール、そして最後に栗原勇蔵が意地を見せた。齋藤の同点ゴールで追い上げムードとなり、榎本哲也が柏木陽介との1対1を制す。「あれを止めたら流れが来るでしょ」と止めた本人が興奮気味に話すビッグプレーで同期の栗原にバトンを渡した。中村の右CKをファーサイドでジャンプ一番ヘディングシュート。マーカーは同じく日本代表の槙野で、守備では栗原が槙野のマークを担当していた。「あのまま負けていたら槙野が調子に乗っていた」(栗原)。結果的には前半の失点のお返し弾となったわけだ。

それにしても久しぶりに伝家の宝刀・セットプレーが炸裂した。と言ってもリーグ戦では中断前の第13節・サガン鳥栖戦以来だから、リーグ戦では4試合ぶりとなる。その間にはナビスコカップ準々決勝第1戦・鹿島アントラーズ戦で直接FKも決めている。それなのに久しぶりという感覚になってしまうのは、やはり「ウチのストロングポイント」(栗原)だからだろう。定期的に結果として残らないと不安になる。セットプレー頼みと言われても仕方がない。

ただ、リーグ再開後の大分トリニータ戦、続くセレッソ大阪戦で数多くのセットプレーを生かしきれなかったことも心理面に影響を与えている。中村自身、「その残像が残っていた。あれだけ蹴っても入らないと、蹴るほうも萎えるから」と心境を吐露している。マリノスにとっては久しぶりのセットプレーによる得点で勝ち切ったわけだが、それは実に“らしい”勝ち方と言える。中村は「ケチャップが残っていたね。蓋のところで詰まっていたのが、ギュッと押したらやっと出た感じ」と笑っていた。

いいタイミングでケチャップが出たものである。この浦和戦をもって2013シーズンは前半戦17試合を終えた。マリノスは勝ち点34の3位で折り返す。「いまの段階では良い順位にいる」(中澤佑二)。東アジア杯が行われるため2週間の短期中断を挟み、31日に後半戦がスタートする。本当の楽しみはそこから始まる。

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