「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

まるで預言者のように [ナビスコ準々決勝1stレグ レビュー](藤井雅彦)-2,408文字-

 

その言葉は、まるで預言者のようだった。新潟県十日町キャンプで行ったインタビューで樋口靖洋監督はこう語っていたのだ。

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「お互いに当てはまることだけど、中断期間明けでの再開後の一発目のゲームということ。つまり、どれだけ試合勘を持った状態でゲームに入れるか。その意味で最初の20分くらいがとても大きなポイントになると思う。2試合トータル180分間の行方を決める20分間になるかもしれない」

 

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実際に、ゲーム序盤はどこか慌しい展開が続いた。リーグ戦での対戦時とは異なり、拮抗というよりもファジーな対応が多かった。マリノスは鹿島アントラーズの右サイドを狙い、鹿島はマリノスの左サイドを狙う。メインスタンド側で繰り広げられる攻防から、そのまま両ゴール前まで侵入していく場面も少なくなかった。すると落ち着かない展開のまま、樋口監督の予言が的中する18分を迎える。

中村俊輔の直接FKを語る前に、その呼び水となったファウル獲得を振り返ろう。ボールを保持していたマリノスは前述したように鹿島の右サイドを攻め込み、齋藤学がドリブルでカットインした。しかし

フィニッシュには至らずボールを奪われたが、そこからの切り替えの早さがマリノスの真骨頂だ。ボールを持った西大伍に対応したのは兵藤慎剛で、すかさずボールを奪い返す。その流れでボールを持った中町公祐から中村へとボールが渡り、巧みなフェイントで小笠原満男をかわすと、たまらず自陣に戻ってきた大迫勇也が体を寄せ、これがファウルと判定された。

 

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4-4-2鹿島 決まってしまえば中村のキックだけがクローズアップされてしまうのも仕方がないこと。壁の上から『巻いて落とす』キックは誰でもできる芸当ではない。しかも、そのキックを中村は「上から降らせる」と表現したのだ。かつてFKを『降らせる』という日本語で表現した選手がいただろうか。希代のキッカーが対戦相手ではなく味方にいることは最高の幸せである。かくして樋口監督の言葉通り、トータル180分のうちの20分までに最初のゴールが決まる。

ただしスコアが動いても試合勘の欠如はいたるところで散見された。セカンドボール争いで味方選手と重なる場面、ハイボールの競り合いで味方選手と交錯する、などなど。マイボールになるはずが相手ボールになってしまう。後ろ向きでのボールロストも何度かあった。34分、中村は相手陣内に入ったところで3選手に囲まれてボールを失い、そのままカウンターから決定機を許している。これは中村が下がってボールキープする際に中町や富澤清太郎とのポジションが逆転現象する悪癖でもあるが、単純にボールを持ちすぎる場面が中村やマルキーニョスは何度かあった。プレースタイルで片付けるのではなく、試合の流れを読みきれず選択をミスしたとも言えるだろう。

とはいえ試合勘が欠如しているのは守備側だけではない。むしろ鹿島攻撃陣のほうがそれを多く露呈した。特にフィニッシュ場面において、決めるべきシーンを決めきれない。ダヴィと大迫はこの試合で何度決定機を迎えただろうか。最大のチャンスは36分の場面で野沢拓也のシュートを榎本哲也が弾き、ゴール目前でこぼれ球を得たダヴィだったが、シュートは枠を外してしまった。不必要な“られば”だが、この試合以前にゲームがあって、そこで得点などして波に乗っていれば、ダヴィクラスの選手は簡単に決めていた場面だろう。

もちろん、それらの場面で最後まで体を張った選手たちは賞賛されて然るべきだ。樋口監督が「ある程度ボールを握られたが、最後のところで体を張れた」と手応えを感じていたように、GK榎本を中心に最終局面で体を投げ出し、相手にプレッシャーを与えた。ボールに触れられずとも、視界に入ることが障害となる。前半はリズムに乗り切れなかったファビオも時間経過とともに持ち直し、もう一方の中澤佑二は相変わらずの安定感を発揮。小林祐三の言う「守備のリズム」をしっかり確認できた。

加えて第2戦を有利にする2点目をきっちり奪ったからこそ、勝利が最高の勝利へと変わったのである。小林の狙いについては別項での本人談に譲るが、ピンチをしのいでから決定的な追加点を取る試合運びは強者のそれだ。欲を言えば、カウンターに関しては回数も精度も上げたいところではあるが、マルキーニョスのゴールシーンはマリノスらしいボールホルダーへのプレッシャーが起点となり、機を逃さず上がった小林が完璧なクロスを送り届けた。そして、ここまでゴール前では不発に終わっていたマルキーニョスが頭で決める。兵藤はニアサイドへ走って相手のマークを引きつけ、中町も長い距離を走ってゴール前へ詰める。ファーサイドには齋藤もいた。リーグ序盤の名古屋グランパス戦で兵藤が決めたような組織的なカウンターアタックが機能した。

2-0という勝利は「これ以上望めない結果」(小林)。富澤は「一番理想的な展開になった」と力強く言い放つ。久しぶりの公式戦がアウェイでの難しい環境で、難敵・鹿島相手でありながら、セットプレーとカウンターで2-0の手堅い勝利を収める。中断期間によってリセットされてしまうのではないかという不安を一蹴するどころか、チームはますます進化していることを印象付けた。

 

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