「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

喜田拓也が示した覚悟、仲川輝人の新たな可能性、そして久保建英が見せた存在感 [天皇杯4回戦仙台戦レビュー]

マリノスらしいサッカーが見られたのは、いつ以来だろう。モヤモヤとしたものが随分と晴れた気がする。今季のマリノスはこうでなくてはいけない。

難しく考える必要はない。“らしさ”の指標はとにかく点がたくさん入ること。マリノスだけではなく、相手チームにもたくさん点が入る。打ち合いになってゴール前の攻防が増える。そんなスリリングなシーンが90分の中でたくさん見られる。アタッキングフットボールはチャンスとピンチの両方が多い。

 16分、相手陣内からのロングフィード一本でディフェンスラインの背後を突かれ、石原直樹にダイナミックなボレーシュートを決められてしまった。先制を許すと攻め手を失いがちだが、決して下を向かなかった。見事なコンビネーションからPKのチャンスを得る。ウーゴ・ヴィエイラのシュートは右ポストを叩き、乾いた音がスタジアムに響いた。

それでもマリノスは攻めた。40分、右CKからの二次攻撃で、仲川輝人から久保建英へ。久保は瞬間的にスペースとフリーの選手を見つけ、ニアサイドへ優しいラストパスを送ると、これに反応したのは同じく新加入の畠中槙之輔。右足のダイレクトシュートでニアサイドを破り、同点ゴールが決まった。

前半終了間際に失点したが、それを後半への活力に変えた。ベガルタ仙台を圧倒的に押し込み、するとウーゴ・ヴィエイラの粘りからのこぼれ球を喜田拓也が豪快に蹴り込む。喜田はベンチ前へ駆け寄り、全員と喜びを分かち合う。そしてゴール裏のサポーターに向けて胸のエンブレムを叩いた。

 

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その後、ロングカウンターから再びリードを許したあとも、マリノスは攻め続けた。シュート20本はその証で、後半の被シュートは失点場面のみ。「後半に関しては完全に自分たちのゲームだったと思うし、マリノスのサッカーができていた」という指揮官の言葉にも納得である。

「だからこそ勝ちたかった。手ごたえがあるからこそ勝ちたかった」と悔しさを露わにしたのは喜田。得点場面だけでなく、攻守両面でスプリントを繰り返してチームを支えた。パフォーマンスからはある種の覚悟が感じられ、さらなる成長を予感させる内容だった。背番号5の成長はそのままチームの地力アップにつながる。

「楽しくできた」と彼らしい言葉で振り返ったのは、この試合が負傷からの復帰戦となった仲川だ。2シャドーの一角として、ウイングでのプレー時よりも前後左右に幅広くプレーしてボールを引き出した。タッチライン際に固定するよりも自由度が増す中央エリアのほうが良さを出せる。自身の負傷とシステム変更が重なって不透明になった起用法だが、問題なく居場所を見つけて復活。追いかける時間での交代は日曜日のリーグ戦を見据えてのものと考えていい。

そして17歳の久保が才能の片鱗を見せた。相手のプレッシャーを受けない位置でボールを受けた際、常に前方向への選択を持っている。同時にボールを『止める・蹴る』の技術が素晴らしく、後半途中まで攻撃をリードしたのは背番号15だった。終盤、疲労から足が止まり、キック精度が落ちると、チームの攻撃も手詰まりに。その現象が逆説的に久保の存在感を示していた。

喜田の言葉どおり、マリノスらしさを見せたからこそ勝ちたかった。ただ、内容的には最近の黒星とは明らかに違う。アタッキングフットボール復活へ。反攻の狼煙となる一戦だったことを、残りの公式戦で示さなければならない。

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