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【開幕戦限定マッチレポート全文無料公開】ニュース◆マテウスの診断結果/レポート◆これぞ欧州流、時間の概念を持ち込んだマッシモ東京、敵地で勝点1/リザルト◆J1第1節柏対東京(2014/03/01)

ニュース◆マテウスの診断結果

2月22日(土曜日)の非公開練習試合中に負傷したDFマテウスがチームドクターの診断を受け、右膝前十字靭帯損傷と診断された。全治期間については後日あらためて発表される。

レポート◆これぞ欧州流、時間の概念を持ち込んだマッシモ東京、敵地で勝点1

3月1日、全国各地でJリーグディヴィジョン1が開幕。FC東京は日立柏サッカー場にてJ1第1節を戦い、前年度ヤマザキナビスコカップウイナーの柏レイソルと1-1で引き分けた。

敵地で慌てることなく、しっかりと勝点1を持ち帰った。
ファーストハーフ45分間は相手の出方をうかがい、慎重に守って0-0。「前からプレスをかけろ」とハーフタイムに指示を受けて臨んだセカンドハーフの立ち上がりにいきなり先制点を奪った。後半18分、工藤壮人のゴールで1-1に追いつかれると、26分に武藤嘉紀に替え石川直宏を入れて4-4-2とし、さらに前がかりとなり、相手ゴールに迫った。その後は五分の展開で引き分けとなったが、非常に頭を使い、考えながらサッカーをしていることがよくわかる試合だった。

まったくの私事になるが、東京都リーグを取材しているとき、とあるクラブの関係者と「日本のサッカーには時間の概念がない」という話になったことが度々ある。そのクラブでは時間帯によってフォーメーション、メンバー、戦い方を変え、90分間を通してのゲームコントロールをすることが常となっていた。

欧州ではふつうに取り組んでいることなのだが、日本では特定の戦術や型を用いて競い合うスポーツとして語られがちであるし、実際にそういう言説が多い。しかし実際には、フォーメーションだけをとっても、この開幕戦のように本来は3バックの柏レイソルが4-4-2を採用して4-1-2-3のFC東京の裏をかくこともあるし、4-1-2-3の東京にしても4-2-3-1と4-4-2のオプションを持ちながら、前線に厚みを持たせたいときにエドゥーと渡邉千真のセンターフォワード2枚と石川直宏と三田啓貴の2ワイドでより攻撃的にという変化がある。

昨年までの東京は、パスをつないで攻めるロマンを掲げてナイーブなまでに突撃しては90分間持ちこたえることができず、勝てる試合を引き分け、引き分けで十分な試合に敗れていた。しかしマッシモ フィッカデンティ監督の考え方が浸透しつつある今シーズンの東京イレヴンは、最低でも必ず勝点1を獲得するべく、時間帯ごとにプレーの中身を考えてピッチに立っていた。

前述のとおり、3バックで臨んでくるかと思われた柏レイソルはなんと4バック。鈴木大輔を右サイドバックに出し、センターを増嶋竜也と近藤直也で守り、左サイドを橋本和がカバー。FC東京の3トップに4人で対峙し、増嶋が余る対応となった。この時点で3バックを想定していたマッシモ東京にとっては想定外かと思いきや、選手は冷静だった。

右ウイングで先発した渡邉千真は言う。
「3トップに対して3バックのままであるはずがないと思っていました。想定内でした」
前半45分間は両ウイングが一列落ち気味となり1トップのようだった東京。右サイドでは、渡邊がサイドハーフのように落ちて徳永悠平と右サイドを守り(前半20分から21分頃に高橋秀人が援護に飛んできたシーンなどに顕著だ)、柏の左サイドバックに入った橋本和を見ていた。
「ほんとうはおれがセンター(近藤直也または増嶋竜也)に行って(インサイドハーフの東)慶悟にサイドを見ろ、という感じだったんですけど、おれが最初から(サイドの橋本を)行って。おれが行こうとすると慶悟が外へ出て行くのもたいへんだし」(渡邊)
右ウイングの渡邊が相手センターバックをマークする仕事は、3トップ対3バックならマッチした状態だから初期配置でできることだが、3トップ対4バックなら、マークしに行くために1工程アクションが必要になる。東が右サイドバックに行くためにもやはり1アクション必要だ。ストライカータイプの渡邊が右サイドに陣取ることで橋本が上がれないという効果もあった。ポストプレーやチャンスメークなどの攻撃に関する仕事にも、いかにも戦術的で融通がきく渡邊の柔軟さがあらわれていたが、前線での守備についてもそれは言える。

なかなかエドゥーへのロングボールやミドルパスが入らず攻撃のかたちをつくれない。ラインが低く前からプレッシャーをかけにいく守備でないためか、後手にまわりカバーリングの守備をしたときにファウルをとられてしまう。観ているほうとしてはストレスがたまる前半45分間だったかもしれないが、これも計算のうちだった。

試合後の共同記者会見でマッシモ フィッカデンティ監督は次のように述べた。
「特定の特徴を持った相手に対してどのように攻め、どのように守るかということになりますけれども、柏のような相手に対しては前半は少し待って、相手の出方を見、より相手を走らせて、という意図がありました。
実際にはそれがうまくいき、後半の最初、よりアグレッシヴに行くことでゴールを奪いましたし、そのあと、四回、五回の決定機をつくり、ゴールの近くに行けたということでは、狙いどおりだったと思います」

この発言を受け、会見後の囲み取材で、前半は相手の様子をうかがうことにした意図について訊ねた。
「基本的にはレイソルはコンパクトになってくるチームです。自分たちの背後をケアするために“待つ”という選択をとりました。やろうとしていたことは前半でできたと思っていますし、その結果が後半に見られたのだと思います。前半のなかで、試合の過程に於いて、少しずつチームを上げていくという意図がありました」
マッシモ フィッカデンティ監督はこう答えた。「上げる」に対する主語がやや不明瞭だが、ラインの高さもチームのパフォーマンスも時間を追うごとに上がっていったのは確かだから、どちらが主語でもまちがってはいない。センターバックの森重真人も「ウラのスペースがいちばん危険なところだと思っていた。そこはしっかり抑えられた」とマッシモ フィッカデンティ監督の談話を裏付ける証言を残している。また左ウイングの武藤嘉紀も「前半は相手の出方を見て。相手もけっこう前がかりに来ていたので、とにかく失点しないことを頭に置いて。守備の時間が多かったんですけれども、がまんできたのではないかと思います」と言っている。チーム全体で意思統一がなされていたのだ。

「90分間のパフォーマンスで見ますと、自分たちのチームは待つときは待ち、行くときは行き、つなぐときはつなぎ、やろうとしていたことがしっかりと出来たと思っています」
マッシモ フィッカデンティ監督はこうも言った。
これはつまり、時間帯ごとにやるべきプレーができたという意味だ。90分間のべつまくなしに攻め立てたところで10点を獲れるわけではない。前半で3点を獲って後半に守りを堅めたり、前半にラインを下げて後半にラインを上げたり、あるいはそれぞれのハーフのなかでも時間を使い分け、ゲームを制することができれば、FC東京が真に変身したことになるだろう。
まだまだ新しいサッカーに取り組んで日は浅くチームは未完成だが、時間の概念を持ち込み、考えるサッカーをして90分間をコントロールしたという意味では、大きな収穫があった試合ではないだろうか?
殊勲の先制ゴールを挙げた三田啓貴は言う。
「ほんとう、そうだと思いますね。みんなうまくいくのかなと不安な部分が頭のどこかにあったと思うので。でもきょう試合をしてみて、やっている路は正しい方向を向いていると実感できたと思うから。
日本ではこういう戦術はあまりないと思うので。それをちゃんと体現できたら、上に行けるんじゃないかと個人的に思っています。みんな、やっている方向はまちがっていなかったときょうで自信を持てたと思うから、戦術もそうですけどチーム全体でよくしていって、ここから上に行ければいいと思います」

実りの多さは「結果を残さなければ次はない」と危機感と意欲をたぎらせた三田のゴールに始まるセカンドハーフの圧倒的なパフォーマンスで感じられた。三田は言う。
「後半はもっと前から行ってもいいんじゃないかということで、もっと積極的にボールを奪いに行っていいという指示もあったので、そこでみんなが変わったんだと思います」
三田が先制点を挙げてからの約15分ほどは完全な東京ペース。渡邊千真に二度つづけて訪れた決定機に追加点を挙げていればまちがいなく勝てたゲームだった。この優勢の時間帯に2点目を獲れない点に関しては昨シーズンから残る課題であり、それは三田も自覚しているようだ。
「あそこで試合を決めることもできたと思います。そこは足りないところですし、そこで失点してしまう(後半18分の工藤壮人)のも、もう一歩のところだと思います。あそこで試合を決めて無失点で行くということが、これからの、いままでの課題でもあったと思うんですけれども、そこの勝負どころでしっかりと勝てていければいいと思います」

エドゥーも「決められるチャンスはあったと思うんですけれども、そこで決めきれなかったというところで同点に追いつかれてしまった」と、声を揃える。しかしそれでも「きょうの引き分けはポジティヴに捉えていいと個人的には思っています」を表情はあかるい。

渡邊はシンプルに「点獲りたい(苦笑)」。ここまで組織としての戦い方が明確になった以上、そしてチームプレーができるフォワードであることを証明した以上、彼の残る仕事はそれだけだろう。多岐にわたるタスクをこなしながらきちんと決定機に顔を出していた。そこで点を獲れなかったことを伸びしろと考えれば、むしろ夢は大きく拡がる。

マッシモ東京はどこまで成長するのか。根本的な質の転換が果たされそうな予感に、胸が高鳴って仕方がない。

リザルト◆J1第1節柏対東京

2014 Jリーグディヴィジョン1 第1節第1日
2014年3月1日 15:03キックオフ 日立柏サッカー場
柏レイソル 対 FC東京
【マッチコミッショナー】星野務
【主審】佐藤隆治(国際主審)【副審】大塚晴弘(国際副審)、田尻智計(1級審判)
【天候】曇のち雨、弱風、気温8.1℃ 湿度79% 【ピッチ】全面良芝、水含み
【入場者数】14,623人

<勝点0→1>柏レイソル 1-1(1st:0-0)FC東京<勝点0→1>
【得点者】三田啓貴(46分=FC東京)、工藤壮人(63分=柏レイソル)
【警告】加賀健一(14分=FC東京、反スポーツ的行為)、高橋秀人(39分=FC東京、反スポーツ的行為)、ハン グギョン(77分=柏レイソル、反スポーツ的行為)、森重真人(82分=FC東京、ラフプレー)、エドゥー(90分+5=FC東京、遅延行為)

○ハーフタイムコメント

マッシモ フィッカデンティ監督(FC東京)
・マイボールを大切に
・前からプレスに行こう
・相手を自由にさせない

ネルシーニョ監督(柏レイソル)
・サイド攻撃のバリエーションを増やそう
・前半はリズムも良くいい試合内容だった。後半もいい入り方をしよう

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