「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】検証ルポ『2023シーズン 緑の轍』 終章(23.12.31)

声とプレーでチームを引っ張れる梶川諒太は、精神的な支柱でもあった。

声とプレーでチームを引っ張れる梶川諒太は、精神的な支柱でもあった。

小池純輝は16点をマークした2019シーズンと17点をマークした2021シーズン、二度のチーム得点王になっている。

小池純輝は16点をマークした2019シーズンと17点をマークした2021シーズン、二度のチーム得点王になっている。

奈良輪雄太は常に全力を出し切るプレーで、多くのサポーターの心をつかんだ。

奈良輪雄太は常に全力を出し切るプレーで、多くのサポーターの心をつかんだ。

終章 歴史に名を刻んだ男たち

■新しい挑戦が始まる

2023シーズンが終わってから、僕は毎日うれしい気持ちだった。ずっとほくほくしていられるなんて、めったにないことだ。

東京ヴェルディが16年ぶりにJ1の扉をこじ開けた。周囲をあっと言わせる、痛快なシーズンだった。そうしていくら特別な1年を過ごそうが、毎年変わらないことがある。ひとつのシーズンが終われば、別れの季節は否応なしにやってくる。

東京ヴェルディは12月7日、奈良輪雄太の現役引退、梶川諒太と小池純輝の契約満了を発表した。スタッフでは、後藤雄一マネージャーも本人の希望でクラブを離れることが決まっている。

9日の『VERDY FAMILY FES. 2023 in ヴェルディグラウンド』が、今季のチームが活動する最後の場となった。

2018年から6シーズン在籍した奈良輪は、今季17試合0得点(天皇杯2試合0得点)。常に全力を出し切る姿勢でサポーターの心をつかみ、トレーニングから強度や運動量などそこにあるべき基準を示し続けてきた選手だ。シーズン終盤は主にクローザーの役割を務め、出場時間が長かろうが短かろうが、奈良輪が奈良輪であることに変わりはなかった。

「(契約満了を告げられ)3秒ぐらいはショックで、2秒で心を整え、5秒後には引退しますと伝えました。ここ2、3年は毎年その覚悟を持ってプレーしてきて、最後にこうやってJ1に上がれたのは本当によかったです。僕にとっても美しい引き際になりました。自分にやれることはやり切りましたよ。やり切ったからこそ、すぐに引退を決断することができました」

梶川は2011年、関西学院大から東京Vに加入し、二度の出入りを経て通算8年間在籍した。今季は4月に右ひざ前十字靭帯損傷の重傷を負い、8試合2得点。全治8ヵ月の診断が下りながら、驚異的な回復力を見せて終盤には戦列に復帰した。

「昇格できたことは本当にうれしかったです。やっとヴェルディでJ1の舞台でプレーできる。そう思っていただけに、悔しいというか寂しい気持ちですね。ただ、練習で全部出し切ってきたので。ピッチ外のことを含め、ヴェルディでやり残したこと、後悔はひとつもないです。本当にヴェルディのことが、緑が好きになったので、そうさせてくれたこのチームに感謝しています。これからはひとりのファンとして応援していきたいです」

ピッチ内外、さまざまな混乱に事欠かなかった東京Vにおいて、リーダーシップとコミュニケーション力に、発信力も兼ね備える梶川の存在は貴重だった。声とプレーでチームを引っ張り、精神的な支柱を担った。29日、梶川の藤枝MYFCへの加入が決まった。若手に混ざって力を高め合い、また存分にピッチを駆けてほしい。

小池は通算7シーズン在籍し、2019シーズンにキャリアハイの16点をマーク。2021シーズンはそれを更新して17点をマークし、チーム得点王に2回なっている。希望を見出せない苦しい戦いが続くなかで、数少ない光をもたらした。だが、チームの構想から外れた今季は1試合0得点(天皇杯2試合0得点)に終わった。

「歴代のすばらしい先輩方がつないでくれたおかげで、自分たちはこの舞台でやれていたと思います。ヴェルディというクラブの持つ価値は高い。次はJ1の舞台でみんながそれを示してほしいです。自分はチームを離れますが、僕らが持っていた愛情を同じようにみんなが持ち、ヴェルディの価値を高めてくれればうれしいです。僕はまだやりたい気持ちがあって、このままでは終われないんでね。引退は考えてません」

コイカジのふたりは親しみやすい人柄で人気を集めたのに加え、Jリーガーの社会貢献活動の輪を広げたことでも価値は大きい。サッカー以外のフィールドに進出し、選手の立場でやれることの可能性を示した。

彼ら功労者、そのほか移籍が決まったメンバーを含め、全員が東京Vの歴史に名を残した。いつか世間は忘れてしまっても、緑の人たちは記憶に深く刻んでいる。

J1昇格プレーオフの戦いが始まる前、城福浩監督は次のように語っている。

「日本人の特性が活きる、日本に合ったサッカーとは何か。その最適解のひとつを示すのは、僕は日本人の指導者でなければならないと思っています。海外の監督でなければとか、年寄りではダメでしょとか、そんなふうに言わせたくないんです。世界に通用するサッカーを構築できる、自分がそのひとりでありたい。今年のヴェルディで、どうだやれるだろうというところまでは見せられたと思いますが、それより先のサッカーの革命的なものであったり、日本人の持つ特長的な部分を表現するサッカーという意味ではまだまだ途上です。やはり、J2ではレベル的に但し書きが付くのでね。J1で実現し、初めて価値を持つものだと思います」

要するに、J1のステージ到達は通過点。目指すものははるか先にある。

どうせ、1年で落ちるでしょ――。この1ヵ月、僕がそれを直接耳にしたのは、一度や二度ではない。大半の人がそう思っているだろう。ファイトの気持ちがむくむくと湧き上がる。

2005シーズン、17位でクラブ史上初のJ2降格となって以降、2007シーズンに続き、16年ぶり2回目のJ1昇格だ。一度目の2008シーズンは、またも17位で自動降格となった。つまり、J2に値する成績しか残せなかった。これで復帰したとなぜ言えようか。最低でも1年は上に留まることで、晴れて東京VのJ1復帰は果たされる。

 

(検証ルポ『2023シーズン 緑の轍』終章、了)

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ