J3番記者座談会LIVE(J論)【4/17(木)21時】

「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】検証ルポ『2023シーズン 緑の轍』序章(23.12.19)

2023シーズン、東京ヴェルディは勝点75(21勝12分9敗、得点57失点31得失点+26)の3位でフィニッシュ。惜しくも自動昇格を逃し、J1昇格プレーオフに臨む。準決勝、ジェフユナイテッド千葉を2‐1で撃破し、清水エスパルスとのファイナルへ。年間順位上位のアドバンテージを有する東京Vは1‐1で清水を下し、ついに16年ぶりのJ1への切符をつかみ取った。
城福体制2年目、東京Vはいかにして勝負強さを身につけ、目指す場所まで到達できたのか。歴史的なシーズンの軌跡を追う。

 序章 誰も知らない

1月中旬、10年に一度と言われる大寒波が列島に襲来したとき、すでに東京ヴェルディは第1次静岡キャンプ(時之栖スポーツセンター)に入っていた。そして、26日からJ-STEP(清水ナショナルトレーニングセンター)に拠点を移し、第2次静岡キャンプをスタートさせる。

J-STEPは天然芝グラウンド2面のほか、フットサルコート、アリーナ、ジム、プールなどを備える総合スポーツ施設で、地域住民に開放されている。14時から始まる午後練に備え、大和純、伊藤涼の両エキップメントマネージャーが出てきて、散水を始めた。ピッチに小さな虹が架かった。

東京Vの選手たちが姿を現し、思い思いに身体を動かす。その様子を、フットサルを終えた4、5人のグループが駐車場脇の喫煙所から見ていた。年齢は30代後半から40代といったところか。ひとりがぼそっと「ヴェルディか……」と言った。だが、誰もその言葉を引き取ろうとしない。

おそらくは顔と名前の一致する選手がいないのだ。知名度は全国区に遠く及ばず、J1での実績が豊富なのは名古屋グランパスから完全移籍で加わった宮原和也くらいのものである。城福浩監督がグラウンドに入ってきて、ようやく「ああ、城福なんだ」と聞こえた。

蹴る人が必ずしも観る人とは限らない。ここは日本有数のサッカータウン、清水である。プレーヤーの人口が多く、関心の高さではJ2より高校サッカーのほうが圧倒的に上回る土地柄だ。

とはいえ、今季は清水エスパルスとジュビロ磐田がJ1から降格し、藤枝MYFCがJ3から昇格してきた。静岡勢3チームが同じディビジョンでしのぎを削る。少しはそれっぽい話題が出てもよさそうなものだと密かに期待し、耳をそばだてた。

しかし、結局、誰が何を言うこともなかった。やがて「メシ、どこいこっか」と吸殻を灰皿に放り、荷物を肩に引っ提げてそれぞれのクルマに向かった。たまたまのめぐり合わせに過ぎないが、僕はこのときのことを今季のスタート時における象徴的な眺めとして記憶している。

15年目のJ2を戦う、現在の東京Vに注目している人がどれほどいるだろう。

まして、一部の人間を除き、勝負のシーズンだと意気込んでいることは誰も知らない。火の噴くような野心をたぎらせていることに気づかない。

昨季の終盤、6連勝で締めくくって、プレーオフ出場に肉薄したことなどすっかり忘れ去られている。

前線にドイツ人アタッカーのマリオ・エンゲルスが加わった。J1経験者は宮原のほかに、アビスパ福岡から北島祐二、横浜FCから齋藤功佑、鹿島アントラーズから林尚輝を獲得した。大部分が重要な戦力となった彼らもまた、よそと比べれば地味な補強策に映ったかもしれない。

アカデミー出身の森田晃樹、深澤大輝、谷口栄斗がいよいよ主軸を担い、将来を嘱望される大卒新人やプロ2年目で伸び盛りの若手がいる。自らを犠牲にしてもチームを支えようとするベテラン選手がいる。何より、集団を束ねるのは反骨心の塊のような指揮官だ。

いまはまだ大きなうねりが起きる予兆すらなく、脈打つ鼓動は限られた人にしか聞こえない。

そうして、東京Vの躍進は人知れずひっそりと始まる。

 

(検証ルポ『2023シーズン 緑の轍』序章、了)

 

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