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開設7周年記念 記憶に残る記事を再掲③【コラム】「なぜ鈴木隆行は契約満了となったのか」(2014/11/29)※無料記事

【写真 佐藤拓也】

2011年、水戸に鈴木隆行選手が加入したことは多くの人に驚きを与えました。
ピッチ内外で鈴木隆行選手の存在感は大きく、危機的状況にあったクラブの救世主となってくれました。
しかし、2014年シーズン後に契約満了となり、チームを去ることとなってしまいました。
その実情をレポートした記事です。
鈴木隆行選手への感謝の思いと苦渋の決断を下したクラブの思いを汲んで書いた記憶があります。

佐藤拓也

水戸のベテランは他の選手以上に活躍しなければならない

28日、鈴木隆行の契約満了による退団が発表された。「被災地の茨城を元気にしたい」との思いで11年6月に水戸に加入し、初年度は無給でプレー。その後も水戸のために元日本代表FWは戦い続け、3年半の間、水戸に計り知れないほどの大きな功績を残した。ただ、そこに関しては、後日あらためて書かせていただくことにして、ここではなぜ鈴木隆行は契約満了となったのかについてのみ触れさせていただく。

今季33試合出場3得点に終わった鈴木隆。そのうち先発出場は11試合にとどまり、3得点中2得点がPK。37試合に出場して12得点を決めた昨季と比べて、物足りない結果に終わったことは否めない。
試合だけでなく、練習においても「なかなかコンディションが上がらず、ついてこられない時が多くなった」と柱谷監督は振り返る。さらにシーズン終盤には右膝の痛みが再発するなど満足いく状態でプレーすることができなかった。「ベテランはチームを引っ張ってもらいたいし、常に先発で試合に出られなければならない」と柱谷監督は水戸におけるベテランの役割を説く。かつて吉原宏太が「水戸のベテランは若い選手の他の選手以上に活躍しなければならない」と言っていたように、リーグ最低レベルの強化費でチーム編成を行っている水戸の中で高い年俸をもらっているベテランは他の選手以上の活躍を見せなければならない宿命を背負っているのだ。

シーズンの半分以上をベンチで過ごした鈴木隆に厳しい評価が下されるのも仕方がないことだった。「彼は功労者だし、これまでチームを引っ張ってくれた。でも、それは関係ない。今季のパフォーマンスを見たら、来季もやってくれとは言えない。そこはシビアに評価をしました」。柱谷監督は鈴木隆を来季の戦力として見ないことを強化部に伝えたのである。

「広告塔>選手」の評価では鈴木隆行に失礼

一方、フロントは「これまでチームに貢献してくれたし、まだまだ水戸に必要な選手。来季も水戸にいてもらいたい」(沼田社長)という評価であった。茨城県日立市出身で元日本代表選手。抜群の知名度と人気を誇る彼の存在は出場機会が減ったとしても営業面において非常に大きなものであった。フロント側は契約の更新を希望した。

フロントと現場の意見が割れたわけだが、尊重されたのは強化部の意見であった。それもそのはず、選手の去就は強化部が責任を託されており、フロントが介入することがあれば、クラブのバランスは崩れることとなってしまう。また、「広告塔>選手」という価値でチームに残したならば、それはむしろ鈴木隆に対して失礼に値する。チームマネジメントも難しくなってしまうことだろう。そして、来季契約を更新する意思がないことを鈴木隆に伝えられたのであった。

14年度は2千万円以上の赤字。経営立て直しへ

また、クラブの経営の問題も関係している。鈴木隆加入とともにユニフォームの背中とパンツにスポンサーがついたことによって、翌年鈴木隆とプロ契約を結ぶことができるようになったのだ。しかし、スポンサー契約は昨年で切れ、今季は背中とパンツを埋めることができなかった。それでもクラブは昨季の活躍を高く評価し、契約を更新したのであった。ただ、クラブの内情を知る関係者から「背中とパンツのスポンサーがないのに、よく鈴木隆と契約できたね」という声が聞かれた。今季は背伸びしての契約となったのだ。それは本人も理解しており、シーズン前には「来年の契約を結んでもらうためにも結果を出さないといけない」と語っていた。

結局、空いたスポンサー枠を埋めることができず、14年度は2千万円以上の赤字が出る見込み。来季に向けて経営の立て直しが求められている。そうした中でチーム最高年俸の鈴木隆を抱えきれなくなったという現状もある。柱谷監督は悔しげな表情でこう語った。「水戸がもう少し資金的に恵まれているクラブならば、彼を抱えることができたけど、現状では難しい」。その言葉から苦渋の決断であったことがうかがえた。

鈴木隆は現役続行の意思を示しており、J3鳥取などが興味を示しているというが、条件次第では引退の可能性もあるという。もし引退した場合には「まだ力を貸してもらいたい」(沼田邦郎社長)と水戸はサッカー教室やホームタウン活動に参加する「アンバサダー」としてのポストでオファーを出している。
退団については残念な決断ではあるが、クラブが鈴木隆を「水戸の功労者であり、特別な選手」(沼田邦郎社長)としてリスペクトした上で1人の選手として評価した結果、今回の決断を下すこととなった。そこにクラブの健全性が表れていると言えるだろう。

とはいえ、この決断が正しかったのかどうかは来季以降の結果に表れることとなる。水戸のために戦った鈴木隆の努力を無駄にしないためにも来季必ず飛躍を遂げなければならない。

(佐藤拓也)

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