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避けられなかった衝突。スベンド・ブローダーセンに捧ぐ勝利……2022シーズンJ2第38節・長崎戦(A)マッチレビュー

▼頼れるもう一人の守護神

ホームでビハインドを背負った長崎がその後は攻勢をかけた。長崎は田部井涼と和田拓也のダブルボランチに効果的な配球を許さなかったため、横浜FCは亀川諒史や岩武克弥が前に出て打開を図る場面が多く、そのぶん奪われたときのリスクは高かったが、大きなチャンスは作らせていなかった。長崎は自分たちが目指すように後ろからしっかりつなぐことで押し込めていたわけではなく、横浜FCのパスを引っかけて攻め込む単発な攻撃に終始していたからだ。

六反勇治はベンチでその様子を見ながら、「日ごろに比べると悪くない試合内容だな」と感じていた。もちろん、まさか自分が後半から出場することになるなどと想像もしていない。衝突のあと、彼の仕事はブローダーセンの元に駆けつけることではなく、すぐに自分の体を作ることだった。15分の中断と、すぐにハーフタイムに入ったことが、六反にとって良かったのかどうかは分からない。

今季、六反が出場した第14節・ホーム熊本戦、第15節・アウェイ秋田戦はいずれも0-1で敗戦していた。約4カ月半、23試合ぶりの出場に少なくとも「嬉しさはなかった」と六反は言う。「ブロが日本に来て苦労しながら頑張っている姿を見ているし、それが怪我をして交代してしまったことはものすごく残念だった」。彼のすべきことはブローダーセンが前半クリーンシートで保ったゴールを綺麗なままに終えることであり、そのためにも「慌てずに、いつも通りにやること」を自身に言い聞かせていた。

後半開始早々の49分、大竹の強烈なミドルシュートが横浜FCゴールを襲った。しっかり反応した六反は、サイドステップを踏み体の正面で勢いを殺し、地面に落ちたボールを両手で大事に抱きかかえた。「ロクさんが出るなら大丈夫と、みんな信頼していましたから」(長谷川竜也)。縁の下でチームを支え続けたもう一人の守護神が、その信頼に応えてみせた。

 

▼チーム一丸、キャプテンの一撃

2点目が生まれたのはその直後だった。ハーフタイムに「ブロのためにも絶対に勝って終わるぞ!」とチームを鼓舞したキャプテンは、六反と同じように頭は冷静だった。和田がサイドの裏を突いたパスから山下が突破を図ると、長崎のクリアボールはペナルティエリア手前中央にいた長谷川にわたった。最初のトラップを前に置くと、航基が呼ぶ声が聞こえたが、そのコースはすかさず鍬先祐弥が抑えた。しかしその鍬先の動きで、前が空いた。「相手を見て、良い判断ができた」。軽くもう1タッチでボールを押し出すと、左足を振り抜く。正確にゴール右隅をとらえたボールが笠原昂史の指先をすり抜け、サイドネットに吸い込まれる。「左足だったから、あまり力まずに打てた」というが、確実にボールにはキャプテンの気持ちと、「ブロに勝利を届けたい」というチームの思いが乗っていた。

「あのゴールが今日のすべてだった」と亀川は振り返る。ハーフタイムのロッカールームは「いつもとは違う雰囲気だった」。後半が始まっても、スタジアムにもまだ妙な静けさとざわついた空気が残り、両チームの動揺もまだ治まってはいないように見えた。その空気を振り払った、長谷川の一振り。「前節(甲府戦)でも苦しいときにやってくれた。やっぱりアイツは背中で引っ張るキャプテンだな」と思いを新たにした亀川は、その背中を支えていくことを誓った。

それからの40分間は、今季最高の試合運びだったと言って良い。今季はリードした展開での後半に相手の勢いを受けて崩れ、勝点を失ったり、ゴールを割られることが少なくなかった。その結果が、得失点差の不利となって今チームにのしかかっている。しかしこの試合では、「保持するところは保持する、その中でチャンスがあれば攻めに行く、守るときは守る、そのメリハリをしっかり出せた」(四方田修平監督)。

65分ごろから少しボールを持たれる時間が多くなったが、マルセロに代えて齋藤功佑を投入して中盤の守備の厚みと運動量を増す采配も効いた。攻撃では連動性を高め、ショートカウンターを受ける場面自体が減少したが、奪われてもすぐに全員で切り替えて危険なエリアまで迫らせなかった。唯一危なかったのは69分、中盤でのロストからクレイソンに持ち込まれてエリア内でシュートを許すが、六反が枠外へとコースを変えた。

長崎は75分にカイオ・セザール、クリスティアーノを投入したが、横浜FCの集中した守備の前にクリスティアーノも唯一のシュートを枠に飛ばせず。最終盤に横浜FCは約5カ月ぶりにクレーべを試運転し、近藤友喜のクロスから豪快なダイビングヘッドを放つ見せ場を作った。フィジカルと空中戦に無類の強さを誇る元セレソンの復帰は、残り4試合の戦いに重要かつ心強いオプションとなっていくだろう。

幸い、ブローダーセンは病院での検査を経てすぐにホテルで静養し、翌日にはチームと同じ飛行機で横浜に帰ることができたようだ。何より、守護神の救急搬送というアクシデントをチームが一丸となって乗り越えたことの意味は大きい。4試合ぶりの勝利となった前節の甲府戦でつかんだ流れを、この長崎戦の勝利が確かなものにした。3バックの安定感と、ボランチとウイングバックの献身、そしてキャプテンを含めた前線の個の力。それらが噛みあい、「残り試合、これでやらない理由はまったくない」(長谷川)という最高の状態だ。

1日遅れて新潟と岡山が勝利し、首位と勝点3差、3位とは勝点5差のままだが、もう他を見る必要はないだろう。残り4試合、この結束を保ったまま横浜FCは自分たちを信じてJ1復帰へ突き進む。欲を言えば、ブローダーセンがいつ復帰できるのか現時点では分からないが、サッカー人生においてタイトル獲得を切望している彼を、「横浜FCが2022年にJ2優勝したときの守護神」と後々に語り継ぐ結果となれば最高だ。

(文/芥川和久)

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