「遠くUAEまで駆け付けてくれた方、時差があって日本では夜中なのに試合を見守ってくれた方、たくさんの応援をありがとうございました。この経験を次に生かさなければいけない」[植中朝日インタビュー]
【植中朝日選手インタビュー】
インタビュー・文:藤井 雅彦
充実一途の植中朝日がヨコハマ・エクスプレスのインタビュー企画に初登場だ。
ACLの準決勝2ndレグ、決勝1stレグと貴重なゴールを決めた若きゴールゲッターは、転機となったインサイドハーフ起用に何を想い、どんな未来予想図を描いているのか。
アジアの頂を目指した戦いを振り返りながら、知られざる舞台裏と今後の野望を明かした。
僕はサッカー人生において優勝を経験したことがありません
――ACLは惜しくも準優勝に終わりました。この結果をどのように受け止めていますか?
「遠くUAEまで駆け付けてくれた方、時差があって日本では夜中なのに試合を見守ってくれた方、たくさんの応援をありがとうございました。あと一歩のところでタイトルを逃してしまったことは悔しくてたまりませんが、チームとしても個人としても前を向いて進むしかありません。この経験を次に生かさなければいけないと思います」
――ファイナルの前に「タイトルを渇望している」と話していました。
「僕はサッカー人生において優勝を経験したことがありません。あるとしたら小学生での県大会優勝くらいで、その後の全国大会では2次リーグ敗退。九州大会も勝てませんでした。中学校3年生の時に出場したU-15クラブユース選手権は、決勝で清水エスパルスに負けて日本一になれなかった悔しさが忘れられない。高校ではU-18クラブユース選手権で決勝トーナメント1回戦負け。プロになってからもタイトルには縁がありませんでした」
――F・マリノスに加入した昨季はリーグ戦で優勝争いを演じながらも2位に終わりました。
「優勝を争う日々はものすごく刺激的でした。ただ、自分は得点どころか試合出場すらできない時期が長くて、思い描いていたような加入1年目を過ごせたとは言えません。優勝できていたらもちろん嬉しかっただろうけど、素直に喜べていたかどうか正直分からなかったのが本音です」
――ストライカーポジションにはアンデルソン・ロペスという絶対的な存在がいました。
「ロペス選手という素晴らしい選手がいることを分かった上で移籍加入したとはいえ、想像以上に高い壁でした。
リーグ戦と並行して行われた昨年のACLグループステージも6試合中5試合に出場したのに無得点。移籍を決断する時に「もう1年長崎でプレーしたほうがいいんじゃないか?」と囁かれた声を全然見返せていない自分が本当に悔しかった」
――今年に入り、ノックアウトステージでは目覚ましい活躍を見せました。
「自分にとって転機になったのはノックアウトステージに進んでからの準々決勝・山東泰山戦でした。アウェイでの第1戦にインサイドハーフとして先発するとは……。昨年はダブルボランチの前に位置するトップ下をやっていたとはいえ、今年になって中盤の形が変わってからはセンターFWで勝負するしかないと思っていただけに、めちゃくちゃ驚いたのが本音です」
――キャンプではまったく勤めていないポジションですよね。
「準備時間は試合直前の2日間くらいしかなかったので、山東戦に出場する時は不安な気持ちしかなかったです。僕が理想とするインサイドハーフのイメージは、ナムくんや(天野)純くん、ナベくん(渡辺皓太)のように、テクニックがあってラストパスを出せる選手。
自分が9番のポジションをやる時は、そういうタイプの選手がインサイドハーフにいてくれたほうがやりやすい。自分はちょっとタイプが違うと思っていたし、何をやればいいのか理解できていない状態でした。でも監督からの期待に応えるためにも一生懸命やるしかない」
――海外移籍前の西村拓真選手がこの位置に入っていました。
「厳密には違うタイプだと思いますが、チーム内で最も近いタイプが拓真くんでした。
拓真くんほど走行距離を記録するのは難しくても、とにかく走ってチームを助けたいという思いで試合に臨みました。あとは誰にでもできる守備や泥臭いプレーを必死に頑張ることを心掛けました」
自分の場所はインサイドハーフという意識が自然と芽生えてきているのも確かです
――得点やアシストこそなかったものの、アウェイゲームを2-1で勝利。中盤の一角として攻撃のリズムを作っていました。
「結果として勝利できたのはホッとしましたけど、自分自身のパフォーマンスに手ごたえをあまり感じていませんでした。そんな時、一緒に出場した左サイドバックの(渡邊)泰基くんに「立ち位置良かったよ」と言ってもらえたことが自信になりました。感覚でやっていたプレーやポジショニングが間違ってなかったんだ、と安心しました」
――新たなチャレンジを楽しめていた?
「楽しめるほどの余裕はなくて、とにかく試合に出られる喜びが大きかったです。どんなプレーがチームのためになるのか分かっていなくて、なんなら今もあまり分かっていない(笑)。FWなら得点という数字があるから分かりやすいけど、MFは本当に難しい」
――準々決勝の蔚山現代戦2ndレグと決勝のアルアイン戦1stレグで連続得点。価値あるゴールで立ち位置を確立した印象です。
「点を取るインサイドハーフが自分の仕事だと思えるようになってきました。点を取れなかったけど、このプレーは良かったな、とはあまり思えなくて、点を取れた嬉しさか、点を取れない悔しさか。両極端な感情しかないし、今は得点以外の要素で自分を評価できません」
――それでもストライカーとして勝負したい気持ち、葛藤があるのでは?
「自分の場所はインサイドハーフという意識が自然と芽生えてきているのも確かです。最初はロペスが点を取ると自分がFWとして出場機会を得られる可能性が低くなることへの悔しさがあったのに、最近では『ロペス、頼むから決めてくれ』と願いながらプレーしている自分がいますから(笑)」
――将来的に2列目が適正ポジションになる、と。
「いつか海外挑戦したい気持ちもあるし、今後のキャリアを考えると複数ポジションでプレーできたほうが良いのは間違いありません。欧州のセンターFWは190cmくらいある選手も多いから、自分が生き残るためのポジションは1.5列目とか2列目になるのかな、と。だからインサイドハーフで起用してもらえたことはとても良い経験になっていて、もっと極めたいという感情が芽生えてきました」
――それは驚きです。ストライカーポジションにこだわっていると想像していました。
「まだまだ分からないことはたくさんあるけど、迷いはありません。相手が嫌がるような立ち位置も感覚的に取れるようになってきたと思うし、のびのびやれている。だからこそACL優勝という最高の形でチームに貢献したかった。自分の力不足を痛感させられる結末でした」
――シーズンは続きますし、秋には次のACLが開幕します。今後への意気込みを聞かせてください。
「ACL決勝前の浦和レッズ戦でテンションの上がるものを目にしました。埼玉スタジアムはロッカーからピッチに出る時に階段を上がるんですけど、そこに2007年と2022年にACL優勝の時のスタメンが写真で飾られていて、決勝のスコアも刻まれていた。タイトルを獲得してクラブの歴史に名前を残すのはこういうことなんだな、と気持ちが高揚しました。
今回のACLでは歴史を変えられなかった。でも、いつか新しい景色を見たいし、その一員になりたい。そして植中朝日の名前をクラブ史に刻みたい。そのためには目の前の1試合ずつを大切に戦って、リーグ戦で結果を残すことが重要です。次のACLでリベンジするためにも、まずは目の前の公式戦でインパクトある活躍を見せていきたいです」
(おわり)
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