「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

最前線に圧倒的なスキルを有するブラジリアンがいる [J2節FC東京戦プレビュー] 藤井雅彦 -2,169文字-

寂しくて屈辱的なフロンターレ戦から1週間。マリノスはFC東京との第2節に向かう。わずか17試合で決着をつける2ステージ制の1stステージにおいて、連敗スタートは致命傷になりかねない。「連敗したら優勝は厳しい」。中澤佑二の言葉は決して大げさではない。危機感を露わにすると同時に、この試合の重要性を物語っている。

4-3-2-1_2015 開幕戦で3失点している守備面のてこ入れは欠かせない。そのための施策として水曜日の練習からファビオをボランチで起用しており、FC東京戦は中町公祐とコンビを組むことが確定的だ。最終ラインの面々こそ変わらないが、チームとして守備の強度を上げなければいけない。まずは持ち前の堅守を取り戻したい。

それに至る過程で、ようやく分かったことがある。守備に置いて、マリノスの選手、あるいは我々も、自然とボールの奪いどころを探していた。樋口靖洋前監督が3年間口酸っぱく言い続けてきたことであり、ゴールを守るよりもボールを奪うという主体的な守備を目指していた。チーム状況や季節によって多少のマイナーチェンジもあったが、高い位置でボールを奪うという狙いは基本的に変わらなかった。

気がつけば、それが体と脳に染みついていた。いまのマリノスの選手たちは、常にどこでボールを奪うか、を考えている。それがハッキリしなかったフロンターレ戦は実に中途半端な戦いに終始した。エリク・モンバエルツ監督は自陣でブロックを敷くことから守備をスタートさせる。では、どうやってボールを奪いに行くのか。選手たちの多くは迷いながらプレーしていた。

正解は「ボールの奪いどころはない」である。モンバエルツ監督は選手が持ち場を離れることを嫌う。つまりバランスを崩して相手選手やボールにチェイシングしてはいけない。11人が組織一体となって動き、その結果としてゾーンに入ってきたボールを奪う。奪いどころがあるとすれば、奪った地点がそれである。能動的にボールを奪いに行くのは、モンバエルツ監督が推奨するスタイルではない。

 

 

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本当は開幕前に気付くべきだったが、第1節を終えてようやくそれが明確になってきた。選手間でも少しずつ浸透しており、FC東京戦はフロンターレ戦ほど統制のとれていない守備ではないはずだ。それでも昨季までの癖をのぞかせる選手がいれば、そこからバランスが崩れかねない。特にボランチの中町とファビオの役割は重要で、彼らが最初のキーマンだろう。

東京4-3-1-2 仮に指揮官のスタイルを体現できたとすると、ボールを奪う位置は必然的に低くなる。ほとんどが自陣で、もしかしたらハーフウェーラインよりも自陣ゴールのほうが近いかもしれない。考えてみれば、チームは始動日からビルドアップのトレーニングに時間を割いていた。GKからショートパスをつなぐ練習である。それは、自陣ゴール近くから攻撃がスタートするのを織り込み済みなのかもしれない。

幸いにしてFC東京は高い位置からボールを奪いに来ないだろう。比較的ゆっくりボールをつなげるかもしれない。そこで二つ目のポイントはアデミウソンの加入である。最前線に圧倒的なスキルを有するブラジリアンがいることで、攻撃に一本の柱が立つ。それをフォローする齋藤学や藤本淳吾、あるいは兵藤慎剛のパフォーマンス向上も期待できる。

今週のトレーニング内容についてモンバエルツ監督は「まず守備を改善した。あとはアデミウソンをチームの中でうまく機能させるために、彼を融合させる作業を進めてきた」と話す。守備とアデミウソン。これがいまのマリノスの実態だ。攻撃は良くも悪くもアデミウソンにかかる期待が大きい。ここでボールが収まらなければ何も変わらないだろうが、ここまでの練習を見ている限りではその心配は不要だ。アンダー世代とはいえ、ブラジル代表で背番号10を背負っている男の実力は伊達ではない。

筆者自身のハードルを上げるかもしれないが、アデミウソンの実力はホンモノだ。ただ、プレースタイルは独善的ではなく、圧倒的な個でゴールを奪うタイプでもない。周囲と有機的に絡み、コンビネーションからゴールネットを揺らすセカンドトップである。彼が輝くには周りの援護が欠かせない。宝の持ち腐れにしないことが肝要だろう。

 

【この試合のキーマン】
FW 39 アデミウソン

 来日したのが8日午後で、9日のトレーニングから合流。当初は対人練習を除く部分合流だったが、11日からはフルメニューをこなし、試合に向けて準備してきた。来日当初は時差ボケもあったが、いまではそれも解消されたという。とはいえコンディションは100%ではないだろう。その中で何を見せてくれるか。

 期待せずにはいられない。練習ではすでに“違い”を見せている。ボールを受けた際の軽やかな身のこなしに加えて、ゴール前では正確無比のシュートでネットを揺らす。中盤ではシンプルに味方を使い、パスの質も極上だ。プレーしている周りの選手に自然と笑顔がこぼれる。単純にサッカーが上手い選手の証拠だろう。

 試合前日、筆者が冗談交じりに「明日は2点取ってほしい」とお願いすると、アデミウソンは「保証はできないけどトライするよ」と親指を力強く突き立てた。求めたいことはたくさんあるが、一番はゴール。マリノスを勝利に導くゴールがあれで、それで十分だ。

 

 

 

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