「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

齋藤に勝るとも劣らない端戸のゴール前でのアイディア [J20節鳥栖戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,410文字-

最初の話題はマリノスの行く末について。昨日8日に発表された日本代表メンバーに。マリノスの選手が一人も含まれていなかった。齋藤学は右足首捻挫の影響もあっただろうが、それがなくても継続的に呼ばれていたかは怪しい。それよりも栗原勇蔵の落選はおおいに疑問である。近年、栗原は負傷がない限りは常に招集されていた。最近でもW杯最終予選、コンフェデレーションズ杯、さらには東アジア杯のすべてに招集され続けていた。

すでに能力が認められているゆえに、今回はパスされたという見方もあるだろう。実際、ザッケローニ監督はそういった趣旨の発言をしていたようだ。しかし、東アジア杯に招集されなかった伊野波雅彦が招集され、東アジア杯でコンビを組んだ森重真人が継続して呼ばれている現実に、心中穏やかのはずがない。欧州からの長距離移動があるわけでもない国内の代表選手に『一回休み』は必要なのだろうか。極めて疑問だ。

次回以降は普通に招集されるかもしれないし、そうなればすべては杞憂に終わる。とはいえ「強いチームは代表選手がいて当たり前」(樋口靖洋監督)である。栗原にはリーグ戦で好パフォーマンスを発揮してもらい、サガン鳥栖戦を視察に訪れる予定のザッケローニ監督に後悔してもらおう。やはり日本代表にマリノスの名前がないのは寂しい。

さて、その鳥栖戦である。この試合をクラブは『ドゥトラ生誕祭』と銘打って、さまざまなPR活動を行なってきた。試合翌日の8月11日に区切りの40歳の誕生日を迎える鉄人左SBを祝おうと、さまざまな仕掛けを用意した。その最たる例が、ドゥトラのお面を10,000個配布し、ウォーミングアップ時と選手入場時に観客がかぶるというものだ。満員でも12,000人程度のニッパ球で、そのうちの8割以上がドゥトラに変身する。異様な光景である(失礼!)。

クラブがオフィシャルで発信するほかにも、今週に入ってからは各種媒体でドゥトラが大々的に取り上げられた。ほかならぬ筆者自身もサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』でドゥトラの原稿を執筆し、彼自身の声を掲載している。「最後はこのチームで終わろうと思っている」という言葉に躊躇はなく、強い覚悟が感じられた。マリノスが勝った上で、主役がドゥトラになれば言うことなしである。

4-2-3-1_マルキ端戸2013 しかし、どうやら試合前からドゥトラの誕生日を祝っているヒマはなさそうだ。前記したとおり齋藤は右足首を捻挫しており、今週に入ってからは一度も全体練習に合流できなかった。木曜日に負荷をかけたところ、金曜日にリバウンドと見られる症状が出たことにより、鳥栖戦を回避することができた。

最近の齋藤は以前よりもボールに関与する回数が増え、プレーの幅も格段に広がった。状況判断の悪さが改善され、仕掛けるタイミングと簡単にボールをつなぐ場面の使い分けができる。齋藤は周囲の見方を否定し、自身を「ドリブラーではない」と話す。それはいくつかの選択肢の中でドリブルという武器を生かせるという意味である。いまの齋藤は一介のドリブラーではなく、常に相手に驚異を与えられる優れたアタッカーになったのだ。

だからこそ不在時の痛手は大きくなる。リーグ序盤に何度も述べたように、チーム内に齋藤の代役は見つけられない。後ろ向き、あるいは横方向へのドリブルキープがてきたとしても、ドリブルで相手をはがすこと、ボールを持ち運ぶ特性を持つ選手はほかにいない。他のポジションからコンバートしようにもできない。樋口監督は齋藤不在時に備えて奈良輪雄太を左MFで試してきたが、彼も攻撃的な位置では持ち味が半減する。中村俊輔は奈良輪を「アイツはSBだから」と言い切る。前の選手がボールキープしてタメが作れたタイミングを見計らって、後方からのランニングで追い越すのが奈良輪の良さだ。最初からボールを渡されても、できることは限られてしまう。

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4-2-3-1鳥栖その点で今週に入ってからの練習で端戸仁が意欲的なパフォーマンスを見せ、木曜日の紅白戦でレギュラー組に抜擢されたのは明るいニュースと言える。もちろん齋藤とはタイプが大きく異なり、同じプレーを期待してもしょうがない。ただしゴール前でのアイディアは齋藤のそれに勝るとも劣らない。最近では長い距離を走るランニングに成長を感じさせる。おそらく右MFでスタートするが、逆サイドまで幅広く動くことで周囲と連動し、攻撃のアクセントになれるか。端戸の出来が鳥栖戦の結果を大きく左右するだろう。

最後に、この一戦は相手にも注目したい。というのも鳥栖の左SBで先発が予想されるのは金井貢史なのだ。現在、マリノスから期限付き移籍で武者修行に出ている身だが、マリノス戦にも出場できる契約内容を希望したのは、クラブでも代理人でもなく金井自身である。前回対戦時は直前のカップ戦で退場するという失態を冒し、出場停止のために涙を呑んだ。今回は逆に主力選手が出場停止となり、その後の配置変更によってチャンスが回ってきた格好だという。

マリノス在籍時の金井は“もっている男”だった。しばしば強豪相手に意外性あるゴールを決めていた。今回ばかりは活躍されては困るが、サポーターに元気な姿を見せる義務はある。マリノスの勝利とともに、金井のプレーにも期待したい。

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