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【VSアビスパ福岡preview】青赤の新たな水を運ぶ人 移籍後初出場へ高宇洋が「高がいるからチームがうまくいく、チームが勝つ。そういう選手になりたい」

 

16J14節 アビスパ福岡 – FC東京(ベスト電器スタジアム)

 

 開幕から2試合引き分けを経て、前節は昨季王者のヴィッセル神戸相手に今季初黒星を喫した。全3試合で得点を取れている一方で、全ての試合で失点をしてしまっている。今週の小平は連日各年代の代表選出に沸いたが、その中で守備の確認にも多くの時間を割いた。

 

 ハイラインハイプレスを根幹に置きながらも、ミドルサードで構える守備はやはり必要不可欠だ。その設計は遅々として進んでいなかったのが現状だった。ようやくここに来て、相手対策を兼ねたトレーニングの中でピーター・クラモフスキー監督から構えた後のプレスの掛け方が提示され、そこから選手とコーチングスタッフも交えて議論を進めてきた。一歩前進した感はあるが、この福岡戦でどこまで機能するかは未知数だろう。ここは相手の出方次第で、柔軟な対応も求められるはずだ。

 

 また、失点が止まらないもう一つの原因は、アップテンポなゲームの進め方にもある。縦に速いサッカーで、一気にゴールに迫る。それがチームコンセプトなのだが、これも当然相手がありきなので状況や点差に応じてスローダウンする時間帯も必要になってくる。前節のヴィッセル神戸戦では今季初めて先制することができたのだが、そこから7分後に同点弾を許してしまっている。仮にリードを奪った時間帯にテンポを下げてボールを保持できていれば、もっと違った展開が待っていたはずだ。

 

 当然勝負の掛かった公式戦で、様々なトライを行っていくことには難しさもある。一方で、開幕からここまで公式戦翌日に行われてきた練習試合では、試合数を重ねるごとに知見を深められている印象がある。DF中村帆高は言う。

 

「神戸戦はメンバーに入ったけど、開幕から2試合メンバー外で控え組の選手たちと『オレたちはやれることをやろう』と話してきた。練習試合でも『目の前のこの試合で勝とう。Aチームがやれていないことをミスしても良いからどんどん出していこう』と、ポジティブな声を掛け合ってきた。チームとしても、個人としても、そうやっていこうという中で、もちろん相手の質とかは別にして練習試合は勝ち続けている。その思いでやっている。いつでも準備はできているし、ギラギラメラメラしている選手は多いと思う」

 

 実際に、そこで積極的な姿勢でボールをつなぐプレーをしていた小泉慶が前節神戸戦で抜てきされ、今季取り組んできたセットプレーから初ゴールを決めた。そうやって歯を食いしばりながら戦っている選手を、3戦未勝利が続くここでフックアップしない手はない。そのなかでも、選手たちから常に名前が挙がる選手がいる。今季アルビレックス新潟から新加入したMF高宇洋だ。チームメートからは口々に「ヤンはいい」と言われ、開幕前のキャンプ中からハイパフォーマンスを継続させてきた。高に「待ってます」と、声を掛けてきた荒木遼太郎も「常に見てくれているし、見るようにも言っているので。もっと自分が生きるようになると思っています」と、共闘を心待ちにしてきた。

 

 

 だが、今季の最激戦区となっているボランチでは、ここまでの3試合で出場機会を与えられることはなかった。気持ちが沈んでいなかったと言えば、嘘になるだろう。だが、高は「下を向いていたら何も変わらないので、常に自分だけにベクトルを向けてやり続けようとしてきた」と、目の前の練習試合に悔しさをぶつけるようにプレーしてきた。

 

「悔しい思いは本当にしている。正直、納得いかない思いや、なぜだろうという思いはある。ただ、3試合ゲームを見ながら何が足りないのか、どこを修正したら良くなるかを練習や、練習試合の中で表現しようと意識してきた。今、内容も含めてあまり良くない中で、ビルドアップの練習をしていても、主力組はいい距離感の中でボールがつながらないところもある。公式戦と練習試合の違いはあると思うけど、それは意識しながらより多くのボールを引き出して縦につけて行くところと、ゲームをコントロールするところは練習試合でも意識してきました」

 

 そして、10日の横浜FCとの練習試合では小柏剛の2得点を演出し、見事なゲームメークでチームを勝利に導いて見せた。その練習試合を含め常に声をからさず、チーム全体に気を配ってきた。チームメートの細かな立ち位置の修正や、「いい距離感でボールを動かすところ、失ったときの奪い返すところも、声を含めて発信していくことは意識している」。

 

 

 そうした活躍が実り、ここ2週は主力組に入る時間も確実に増えてきている。高が入ることで、最終ラインからのアラートが前線にもスムーズに伝達され、ここまで気になっていた綻びも繕えるようになってきた。ビルドアップでも選手の配置を細かな修正し、テンポ良く縦につながり主力組が紅白戦でプレス回避する場面も多くなった。高は「常に自分だけにベクトルを向けてやり続けようとしていたので、そのチャンスがきたらぶつけるだけだと思います。福岡に全然勝っていないと聞いたので、ビッグチャンスがきたと感じている。その準備はできています。ここでつかみ取りたい」と言い切る。

 

 福岡の本拠地であるベススタは過去11分け5敗の鬼門。最後に勝利を挙げたのは、200071日までさかのぼる。出場すれば移籍後初出場で、ミドルサードの守備と、ビルドアップと、ゲーム運びといきなり高難度の仕事を請け負うことになる。それでも、ため込んできたエネルギーを吐き出せるのだ、自然とその言葉には熱が帯びる。

 

「高がいるから、チームがうまくいっている、チームが勝つ。そういう選手になりたいと思っているので、そこは上手くやっていけたらと思います」

 

 人と人をつないでいくそのプレーは、ボールを介してまるで会話をしているようにも見える。今、チームが抱える喫緊の課題解決には打ってつけの人材だ。声で、プレーで、そして姿勢で、チームをサポートする。イビチャ・オシムが言った、「水を運ぶ人」がここにいる。ここから反撃ののろしを上げられるのかは背番号8に懸かっている。そう言っても、決して過言ではない。

 

 

text by Kohei Baba

photo by Kohei Baba,Masahito Sasaki

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